10-62 もしかして
直日神でも禍津日神でも、闇堕ち為されば妖怪になる。
軍神で在らせられる殺神を引き合いに出した。というコトは舟に憑くか潜んでいなさるのは、闇堕ちスレスレの軍神。
「ミカさん。」
「あぁ。」
加津社の祝サハが、浅瀬から社へ向かって清めの力を揮う。社の司ツサはミカ、イイと共に舟に乗り込み、清めの水が入った甕を抱えて踏ん張っている。
闇を伸ばせるようになったイイは舟を、ミカは加津を守りながら、沖から近づく舟に鋭い闇を向けた。
「ナッ、何だアレは。」
加津には妖怪の国守が居る。良く知られた話だが、子まで闇使いなのか。
「ワッ、アァッ。」
構わず向かった舟が引っ繰り返され、兵が海に引き摺り込まれた。一人も浮かび上がらない。
「ヒッ、引け。離れろ。」
松田、浦辺に入った舟は戻らなかった。加津にも寄れない、となると苦しいがドウしようも無い。なのに、なのにナゼ舟を進める。
「止めろ、漕ぐ・・・・・・ナッ。」
誰も漕いでいないのに、舟がアレに近づく。引き寄せられている、いや違う。押されているのか?
「来たな。」
ミカが闇の先を清めの水に浸け、ビュッと伸ばした。
イイの言う通りに動かし、闇堕ちスレスレをブスリ。そのまま沈め、海社の使い隠に引き渡す。
「海に落とされたくなければ、今すぐ加津から離れろ。」
兵たちコクコク、赤べこ状態。
「口に出せ。」
「わかりました。引きます、離れますぅ。」
エッサ、ホイサと櫂を手に漕ぎ漕ぎ、他の舟と共に加津から離れた。
「来たね。」
光江で待ち構えていた耶万の社の司、アコ。両の掌を広げ、十の指先から闇を飛ばす。
トストストスッと植えられた闇が芽を出し、ポポンと葉を広げ大騒ぎ。
「ギモヂワルイ。」
光江に押し寄せた兵たち、真っ青。かぁらぁのぉ、ドッバァ。
穴という穴から血を噴き出し、苦しみながら花を咲かせる。実がドッカンドッカン弾け、光の雨がザァ。
「アァァァァァァッ。」
アコに闇を植え付けられたのは兵だけ? いえいえ。舟に憑いたり潜んでいなさった神にもシッカリと。ウフフ。
アコの力により光に変わった闇が、サッと海面に広がった。沖へ流れて西は津久間、東は具志古までフワフワ漂い、優しく清めてゆく。
苦しんでいたアレコレは海社へ誘われ、裁きを受けに根の国へ。
「ふぅ。」
照の背に乗り、社に戻ったアコ。水をゴクゴク飲み、やっと落ち着いた。
「戻って直ぐに悪いけど、信じたくない事が分かったんだ。」
耶万社の祝人頭、ダイが申し訳なさそうに言う。
「えっと、もしかして明里から何か。」
「当たり。悪取神が捕らえた兵を吊り下げたまま、強く問い質された。でね、明らかになったんだよ。光江と悦が倭国。大野、采、安が飛国と結び、兵を得るために耶万に仕掛けたって。」
「何だって!」
「悪取神は『兵を生かしたまま裁きを』と御考え遊ばし、獄を建て為さった。アサに頼んで明里から耶万へ、と思うんだけど。」
「うん、そうしよう。」
「悪取神は耶万神に伝え為さり、大蛇神の御元へ。」
「急ごう。アサ、頼めるかい。」
「はい。入れるのは、新しい獄ですか。」
「そうだね。」




