10-58 いざ、商いへ
春にはタラ、ウド、フキノトウ、竹の子、グボウシなどがイッパイ採れる。そうそう、春の熊も美味しいヨ。ワクワク。
「見て、いっぱい採れた。」
明里の良い子たち。山の幸が入った背負い籠を見せ、嬉しそう。
「これは美味しそうだ。」
大人に褒められ、ニコニコ。
ヤンチャ四妖は熊肉で育ったと言って良い。つまり揃って、熊さんダイスキ。狩った大熊を担いで嬉しそう。
子熊に手を出さなかったのは、肉が少ないと思ったから。
「見て見て。」
「大きいでしょう。」
「小さいのは追い払ったよ。」
「悪くなるの、取った。」
日本では熊は年中獲れるが、最も美味しいのは冬眠中、または冬眠直前。次に美味しいのは春の熊。
熊肉は臭みが強いと思われがちだが、狩猟後の処理の仕方で個体差が出る。
シシとナヲが子熊を見つけ、イコとムツが狩るのを止めた。親熊を見つけたから。
四妖は飛び掛かり、太い筋にガブリ。そのままゴキュゴキュ。素早く血抜きし、腹を掻っ捌く。
肋骨など邪魔な? 骨はポキッと折って籠にポイ。熊の胆は汁が漏れないように剥がし、胆管を紐でキツク縛ってから切り取った。
それから仲良く、内臓を鷲掴みにしてモグモグ。
「こっ、これはまた。」
明里の人を怖がらせないよう、お口の周りはキレイに洗いました。エッ、衣? あっちゃぁ。
「上手いモンだな。」
ツルンと剥いだ皮は、ポッキンした骨とは違う籠に入れたヨ。褒めて、褒めて。
「骨んトコで外してあるぞ。」
前足も後足も、関節の部位でクルクル。
熊の掌はドコに持ち込んでも喜ばれる。コラーゲンが豊富に含まれ、美容効果があると珍重される中華料理の高級食材、『熊掌』だもん。
「会牧に持ち込めば、米と換えてもらえるカモ。」
ホウが呟く。
「そうなの?」
アサに問われ、頷いた。
「火の山島にも熊が出るけど、狩り人より釣り人が多いからね。里や村に入れば狩るけど、その前に追っ払うんだ。」
四妖、お目目キラキラ。
「熊よりシシが多いよ。」
四妖、ガッカリ。
粟や稗、蕎麦などタップリ収穫できたが米は無い。いや有るが、津久間から譲られたモノ。
「行ってくるよ。」
釣り人が舟を押し、サッと飛び乗る。
「いってらっしゃぁい。」
櫂を持つ水手と共に、見送り人に手を振った。
浦辺から会牧まで遠いが、社を通して行く事は知らせてある。
追い風を受けた帆がパンと張り、イイ感じだ。きっと火の山島の東までスイスイ、流れるように着くだろう。
真中の七国は長引いた戦でボロボロ。
中の西国や南国、中の東国に逃げ込んだ人も居たが、これまでの行いが悪過ぎた。
死にはしなかったが食べ物に困り、春が来て直ぐ逃げ帰る。
田も畑も荒らされ、家は壊され何も無い。何れ兵を集め、攻め込むのでは? なんて話が出ているトカ何とか。
「さぁて、かかるか。」
海沿いの崖から見送った悪取、グインと背伸びしてニコリ。冬の間イロイロ聞き、思った。真中の七国から兵が押し寄せる前に鞣里を整え、田植えを済ませたいと。
「はい。」
モチロン明も手伝いマス。切り株を取って鍛えた前足で、荒地をググッと引っ掻くヨ。フフフ。