10-56 寂しくなりました
新任研修中の隠たちが力を合わせ、剛国の長の倅を乗せた舟をツンツン押して進める。
波だけでもタイヘンなのに上に下に、右に左に、タマにクルンと一回転。舟で嘔吐き、胃が空になってもオエオエ。
飛国の浜に近づくと、和邇と鯨が初めての共同作業。
壱、弐の参で尾鰭を動かし、エイッ。ビュンと舟が砂浜に乗り上げ、松の木にドン。止まったのは良いが頭を強く打ち、ビシャンとゲロ溜まりへ。
飛国から川を上り、瀬国を通って剛国に入った。
やっと戻れた、帰ってきたんだと崩れ落ち、三日三晩も寝込む。その間、アチコチから使いが来た。松田に送り込んだ兵が一人も戻らなかったから。
「松田ハ、あの地はアッ、明里デす。どどドコにも降りません。ツき従わセるナンて事、デきまセん。アッ、アッ、諦めてホかに、しし、仕掛ケまシょう。」
ガタガタ震えながら、何とか言い切る。
「ナニ?」
凄まれても引きません。殺されるよりマシだから。
「明里ニも、ばばっ、バケモノが居マすぅ。」
と言い残し、バタンと倒れて動かなくなった。
「戦だぁ! 明里を落とぉす。」
「ヲォ。」
止せば良いのに攻め込みました。結果? 明里の圧勝よ。七国連合軍のお偉方に滅びの力を揮い、纏めて送り返します。
どうなったのか、分かりますよね。
「笠国を統べるのは、このワシだ。続けぇ。」
ドドド。
「瀬国こそが全てを統べられる。行くぞぉ。」
ドドドド。
「保国の王に、ワシはなる。」
ドドドドド。
「飛国が真中を統べるのだ。」
ドドドドドド。
「力こそ全て! 七国を統べるのは剛国だぁ。」
ドドドドドドド。
「駒国の底力、見せつけてやれぇ。」
ドドドドドドドド。
「真中の七国は、倭国にしか統べらぬ。蹴散らせぇ。」
ドドドドドドドドド。
真中の七国、そのアチコチで内戦が始まりました。内戦は大戦になり、お察しの通り長期化。
イロイロ不足し人口激減。腹が減っては戦が出来ぬ。やっと終戦? いえいえ。骸を食らって続けました。
夏が過ぎ秋も過ぎ、冬が来て雪が降り、それでも『負けられません、勝つまでは』と突っ走る愚か者。大雪が降って動けなくなって、やっとこさ終戦を迎えます。
けれど手遅れ。森の恵みを得られず、獣は冬眠中。誰もが飢えているのだから当然、骸も骨と皮。食べられるトコロが無い。
笠国、剛国、瀬国は中の西国。笠国、駒国、倭国は中の東国。飛国と保国は南国に泣きついた。
真冬に、甚だしく迷惑な国から縋られても困る。『蓄えは有るが分けられるホド無い』とソッケなく断られ、木の根を齧って飢えを凌ぐ。
「何と言われても、出来ぬモノは出来ぬ。」
真中の七国に御坐す神神、思い切って杵築大社に泣きつき為さる。バッサリ切り捨てられ、ショボン。
「御力になれず、申し訳ない。」
真中の七国に御坐す神神、駄目で元元と思い切って津久間社へ。結果、残念。
「それは気の毒だ。けれど言えぬ。『幾度も攻め込んできた地に、国に食べ物を送れ』など。」
真中の七国に御坐す神神、フラフラなさりながら大貝社へ。結果は同じ。うん、残念。
幾度も大祓を繰り返し、何とか清める事が出来た。けれど数多の神が御隠れ遊ばす。時が流れ大戦により人が減り、数多の神が御隠れ遊ばす。
食べ物を求めれば御食神が現れ出られるが、人は何を求めるのだろうか。