10-55 初心者ですがヨロシク
大きくて白いのがバケモノに耳打ちして、ギョッとしたマデは覚えている。
オレはナゼ食われているんだ。腹が痛い、腕も足も痛い。ビチャビチャ聞こえるのは、この音は。考えたくない。でもオレ、死ぬんだろうな。
一人だけ戻ったのはドレも皆、酷く怯えて話も出来ない。東国にバケモノが居る、生きたまま食い殺される。
聞いた通りだったよ。ハハッ、ごめん戻れない。
「掛かれぇ。」
「ヲォォ。」
また来た。オレたちと同じだ、負けるなんて思ってナイ。兵が吊られ、運ばれてゆく。兵頭が手と足を引っ張られ、鳥に突かれている。
そうそう、目を閉じるしかナイよな。
兵の泣き叫ぶ声を聞きながら、生きたまま食われるのを見ながら考えるんだ。『ナゼこうなった』って。
両の手と片っぽの足がプランとして、逆さ吊りになった。全く同じだオレと同じだ、食い殺されるぞ。
「話を聞こう。何しに来た。」
ほらホラ、来た来た。強がんだろ?
「剛国に付き従え。拒むなら攻め滅ぼし、生き残りを奴婢とする。」
ハッ、ドコも考える事は同じだな。
駒国の次は剛国か。倭国や飛国、保国に瀬国も送ったハズ。となると次に攻め込むのは笠国。
ハハッ、愚かだよ。
みぃんなアッサリ殺されるのに、戻ったのが『東国から引け』って言うのに送り込むんだ。ドンドン送り込むんだろう。
死ぬのは兵だけ、長も王も生き残る。偉いのは生き、下っ端が死ぬ。
「断る。」
「はぁ? 断れるワケ無いだろう。松田、いや明里だったか。この地は剛国のモノとなり、真中の七国を一つにする足掛かりとなるのだ。喜んで降れ!」
若いのに言うねぇ。いや若いから言えるんだ、あんな事。見ろよ、ピクピクしてるぜ。
「ギャァァァ。」
あぁあ、食われた。頭からガブリとイカナイのは、残してるんだろうな。先ず腹、足、腕ときて頭。
「こ、ろさないで。」
若いのを残したのか。ん、アレは確か・・・・・・。剛国の端にある国の、長の末の倅だ。フッ、アハハ。
良いのを残したな、バケモノ。アレは長のお気に入り。生かして戻せば大騒ぎになるぞ。
「剛国に戻って伝えろ。『明里はドコにも降らん、付き従わん』と。」
コクッ、コクコクコク。
「何とか言え。」
「はい、分かりました伝えます。伝えさせていただきます。」
漏らしながらバッと平伏し、分かりやすく怯えている。
「なら、生かして戻そう。」
乗ってきた舟に放り込まれ、そのまま海に流された。たった一人で火の山島を越えられるのか、あの波を越えられるのか?
「兵頭! 生きてたんですか。」
「いや、食い殺された。」
「オレたち、どうなるんだ。」
松裏の特別室で死んだ兵たち。その魂は纏めて袋詰めされ、若葉マークのピチピチ和邇さんズに襲われる事になっている。
海社から根の国へ放り込まれ、裁きを受けるのはズッと先の話。
「アッ、アァッ。」
海の暴れん坊、隠になってもオラオラよ。
一頭では大人しいが、群れると大きな鯨だって襲っちゃう。ソレが和邇。イェイ!
「死んだのにぃ。」
「また食い殺されるぅ。」
忘れたくても忘れられない痛み、苦しみなどアレコレ思い出し、七国を出た事を悔いた。
ナゼあの時、拒まなかったのだろう。ナゼあの時、進んで前に出たんだろう。まだ若いのに、もっと生きられたのに。