10-53 知れた事
人として生まれた子が多く、残りは人と同じ時を生きる合いの子。『明里の地から熊が逃げた』と言われているが、タダの笑い話というワケでは無い。
アッチにもコッチにもノソノソしていたのに、稀にしか見なくなった。
熊は人を襲う。少なければ痛い思いをする人が減るので良い、と思うのだが何ともカンとも・・・・・・。
シシ肉は美味しい。シシが増えれば、それだけ喜ぶ人も増える。のだが。
「熊肉、食べたい。」
合いの子の多くが熊肉で育った。つまりカノシシ、イノシシより熊が好き。大好きな熊肉をタマにしか口に出来なくなり、ションボリしているのだ。
「アッ、この臭い。」
合いの子たちがタッと駆け出す。暫くするとエッサ、ホイサと何かを担いで・・・・・・。
「悪取様! 皆でエイッとしたら、狩れました。」
ニッコォ。
「そ、れは凄いな。」
大きな石が矢のようにビュンビュン飛んでくるわ、引っこ抜いた木でバンバンされるわで、アッと言う間に狩られたのだろう。ズタズタのボロボロである。
「お昼に食べよう。」
「そうしよう。」
「楽しみだな。」
ワイワイ。
明里の地で暮らす熊が狩り尽くされたとしても、白い森を抜けたり川を渡るだろう。この地に広がる森は豊かで木の実、虫に鳥、四つ足の獣だって多い。
「美味しいのかな?」
畑の上から急降下。嘴を開け、虫をパクッ。翼をバタバタ動かし急上昇。
「食べてみる?」
・・・・・・。
「森でイロイロ採ろうよ。」
美味しいキノコに木の実もイッパイ。
「そうだね。」
合いの子に付いてきてもらい、籠を持って森に入る良い子たち。
明里から糸が張り巡らされているので、大きな鳥に攫われる事は無い。四つ足が襲ってきたら、合いの子が目を輝かせて狩る。
「また来たのか。」
死ぬと分かっていても引っ切り無しに、西から多くの兵が押し寄せる。
「祝が減って、いや祝の力を持つ者が減り過ぎて、王や長を止められないのだろう。」
気の毒に。
弱い長は民を守れず、愚かな王は国を滅ぼす。真中の七国は解ろうとシナイ。力で従えさせられるのは長く生きられない者、何も知らない者だけ。
他の地でも生きられる賢いの、若いのはドンドン逃げる。
「心の底から『国を一つに』と願うなら、話し合いを求めるだろう。血を流す戦なんぞ仕掛けず。」
耶万に狙いを定めた真中の七国がナゼ、松田を目指すのか。
知れた事。多くの舟を連ねて耶万に攻め込むより、少しづつ松田に集めて戦に備える。秋の刈り入れが済んだ辺りにドッと攻め込み、食べ物と人を纏めて奪う気でいるのだ。
「私は戦を望まない。兵よ、引け。残らず西へ戻り、王に伝えよ。『東国には勝てぬ』と。」
「黙れ! ヌシが松田の長か。」
「松田は滅んだ。私は明里王、悪取。」
明里は隠の国で、人の長は他に居ます。でも言わない、教えない。ややこしい事にナルから。
「アトリ? 何だ、その名は。」
悪取神が姿を御見せ遊ばすのは、明里で暮らす人のため。明が姿を見せるのは、悪取神の使わしめだから。
「ヴゥゥ。」 サッサトヒケ。
巨大化した明が牙を剥く。
「引かぬなら消すが、どうする。」
「ハッ、やっちまえ!」