10-51 祝いの品は
浦辺でベビーラッシュが始まった。アレコレ報告しなければイケナイのだが、悪取は明里から出られない。そこで明、使わしめデビュー。
「ハァ。」
耶万の社の司、溜息を吐く。
「ねぇアコ。『松毒』、もう無いよね。」
禰宜のザクが問う。
「死んだタクが『何で残って無いんだ』って言ってたから、無いハズだよ。」
「だよね。」
真中の七国が欲しがっている『松毒』は、『耶万の夢』より弱いが恐ろしい毒である。
風見や早稲からアレコレ仕入れなくても、手っ取り早く作れるトカ何とか。
「それより『耶万に戦を仕掛ける』ってのがさ。」
祝人頭ダイ、イライラ。
「もう纏めて、闇の種を植えようかな。」
アコ、爆弾発言。
鎮の西国と中の西国は落ち着いたが、真中の七国は大荒れ。アチコチ仕掛けちゃ攻め込んで、兵も食べ物も足りない。
西国には攻め込めないので中の東国、耶万に狙いを定めたのだが・・・・・・。
いきなり光江に攻め込めば負ける。近海や大浦に仕掛けても負ける、勝てっこない。悦へ行くには光江を通るしか無いし、バケモノが居る腰麻、加津、千砂には近づけない。
浦辺にもバケモノが住みついたと聞く。
「津久間から逃げたのが、松田に住みついた?」
「はい、そのようです。」
一人だけ戻った兵が松川の東で、漁をする舟を幾つか見た。浦辺にはバケモノが居るのだから、人が暮らせるとすれば松田だけ。
あの辺りは切り立った崖が多く、舟を出せるのは浦辺か松川の奥に限られる。浦辺が違うなら、松田しかナイ。
「逃げたのは孕んだ娘と、その連れ合い。育った子も多いとなると、兵に出来るのがワンサカ移り住んだ事になります。」
臣から報告を受け、ニヤリ。
王も大王もコロコロ代わり、その気になれば成り上がれるのだ。足りないのは兵と食べ物。人が多いなら食べ物もタンマリあるハズ。それを丸ごと奪えば勝てる。
「先ずは甚振り、従わせろ。」
「ハッ。」
「もう嫌だ。」
真中の七国に御坐す神神、頭を抱え為さる。
数多の神が御隠れ遊ばし、新たに現れ出られるのは禍津日神ばかり。祝の力を持つ者が生まれず、渦巻く闇を祓えない。
となるとセッセと清めるより他なく、もうフラフラ。
大祓するには高天原、根の国、隠の世を通さなければナラナイ。人の世だけで執り行うと、それはもうタイヘンな事になるから。
「闇が濃すぎる。」
アッチでもメラメラ、コッチでもメラメラ。いつ闇が溢れても不思議ではナイ。もし溢れれば、なんて考えたくない嫌なんだ。
お助けください隠神様! と大騒ぎ。
「籠ろう。」
真中の七国の神神、使わしめと社に御籠り遊ばす。神は見守るのみ。手を出せないから暫くの間、外に出ません。
言の葉を使って何とかシナサイ。
「やっと落ち着いた。」
津久間神、ホッ。
「長かった。」
火炎神、しみじみ。
「ほんに。」
斑神、ゲッソリ。
「明里で多くの子が生まれたのだ。喜ぼう。」
「祝いの品は、何が良いかな。」
「・・・・・・酒!」
三柱ニッコリ。三月ほど待って、悪取社に御神酒を届ける事になった。