10-49 なぜ松田に集まるんだろう
松田に逃げ込んだ悪いのは、海に出る前から悪かった。
特別室で肉食獣の腹に入れば、そのまま根の国へ。裁きを受け罰を受け、生まれた地へ戻る。のだが、一般裁判では裁けないホドの重罪を犯し続けた。
よって明里で処分する前に海に放り込み、罰を与えてから裁く事が決定。
骸に魂が残っている状態での引き渡しを要求された悪取、快く要請に応じて対象を梱包。ポポイと海へ投げ込んだ。
腹ペコ和邇さんズ、パックンするのをグッと我慢。
松田で釣りをする人は居ないが、椎の川から海に出る舟は多い。出来る限り沖に出ないと、後でコッテリ油を絞られるのだ。ブルル。
逆に言えば、沖に出れば味わえる。
空腹は最高のスパイス、御預けを食らうワケでは無い。だから耐えられマス。
松川の前にズラッと並んだ和邇さんズ、逸る気持ちを抑えてジュルリ。ポポイと放り込まれるソレを銜えて、ビュンビュン飛ばす。
沖に出たら? 美味しく『いただきまぁす』パクン。
「見物でしたね。」
海の生き物じゃなくて良かった。
「そうだね。」
これからも押し寄せるのだろうか。
「悪取様?」
「何でもないよ。」
明を撫で、ニッコリ。
なぜゴロツキが松田に集まるのか、幾ら考えても分からない。けれど集まるのだ、諦めて片付けるダケ。
にしても気になる。松田に集まって何をする、何を企んでいるのだろう。
闇が集まるのは、いつも松田。采や大野などの生き残りが考える事は何だ。耶万に仕掛ける? 負けるだろう。
ヤツらが松田に求めるモノは何だ。松毒? もう無い。となると、いや待て。もし松毒が有れば耶万を・・・・・・滅ぼせなくても弱らせる事は出来るハズ。
『耶万の夢』に要るモノは、風見や早稲に押さえられたとか。
どちらも戦好きだが、耶万との結びを切った。付き合いは続けても、アレコレ手を貸すとは思えない。となると? 少ない兵で耶万に勝つには、どうすれば良い。何が要る。
どう考えても『松毒を求めている』としか思えない。
「海望を整えたら、鞣里ですか。」
「ん? あぁ、そうだね。」
悪取様、明に出来る事なら何なりと御申しつけください。犲ですが力いっぱい働きます。
スリスリ、キュルルン。
「これからも私を支えておくれ。」
「はい、喜んで。」
うふふ、良かった。にしても許せないな、悪しいの全て。
明里はね、幸せになりたい人がシッカリ働いて、助け合って生きる国なの。だから来ないで。
にしてもオカシイ。なぜ松田に集まるんだろう、闇だよ闇。悪取様の御力で清められても、闇堕ちしたのは救えない。ソレを知らずに? うぅん、違う気がする。
家も食べ物も失った人がバタバタ倒れて動けないのに、どうして戦を続けるの。人って生き物は、奪い合わなきゃ生きられないのかな。
ハァ、幾ら考えても分からない。とっても嫌な感じがする。
松田に集まっているの、今のトコロ人が多い。ケドそのうち妖怪とか、人だと思い込んでいる合いの子とか押し寄せるカモ。嫌だなぁ。
「ありがとう、明。」
ナデナデされ、ウットリ。
「戻ろうか。」
「ハイ。」
旧松田領は大祓により清められた。
明里の民は皆、心穏やかに暮らしている。闇堕ちする事は無い。けれど他から押し寄せるのは違う。セッセと取り除いでいるが、近いうちに溢れるカモしれない。
そうなる前に、出来る限りの事をしなければ。