10-48 特別室へ御案内♪
どうなっている。なぜ誰も居ない。
先に出たのが幾人か、なのに一人も見当たらない。隠れている、いやソレは無い。だとすれば殺された、としか考えられない。
「何で吊られてんだよ。」
松川に入って直ぐ、セッセと漕いでいたヤツが一人消え、二人消え。見上げると片っぽの足を見えない何かに取られ、逆さ吊りになっていた。
『助けて』って言われてもねぇ。
櫂を持ってたヤツが振り回していたが、伸びるだけで切れないらしい。そんなの、どうしろってんだ。
舟は海に戻らず流れに逆らい、引っ張られるように奥へ奥へ。で着いたら着いたで誰も居ない。
「瀬国から逃げて逃げて、やっと海に出たのに。」
長かった。殺して奪って嬲って殺して、やっと出られたのに死ねるか! 生きる生き残る生きてやる、オレは死なない死ねない。
そうだ、従わせれば良いんだ。
「ドコの生まれだ。」
「んだと?」
クックッ、整ってんじゃねぇか。聞いたぜ、男でも売れるんだ。飛国じゃ女が少な過ぎて、男でスッキリさせるらしい。
喜べ、放り込んでヤル。
「何を考えているのか分からんが。」
悪い事を考えている事は、手に取るように分かる。
「ヒィハァ。」
鳥を真似ているのか? 何だ、あの動き。
腰を落として肩を揺らし、腕をプランプラン。悪いキノコでも食べたのか、涎を垂らしてニヤリ。
「グヘッ。」
タッと駆け出したソレは吊り上げられた。
イノシシを狩るのに仕掛けた罠に首を突っ込み、体をくねらせジッタンバッタン。動けば動くほど食い込むのに、爪を立て縦に掻いている。
「お、ろぜ。」
やっと諦めたのか、闇を纏ったソレが呟いた。
『ドコの生まれだ』と問われた事など、スッカリ忘れているらしい。目をギランギランさせ、ギッと睨んでいる。全く怖くないが、気持ち良いモノでも無い。
下ろせば暴れるだろうし、問いに答える気も無さそうだ。
『瀬国から逃げて』来たというコトは、耶万か松田に売り飛ばされた奴婢。
松田に売られたならココには来ない。耶万に売られたなら采、悦、大野、光江、安の生まれ。ん? 足に布。采か。
救いようがナイから松裏に運んで、人食らいの餌にしよう。
「オイ、ごごがらお、ろぜ。」
「黙れ采! 殺しを楽しむヤツは生かしておけない。」
は? ナニ言ってやがる。殺さなきゃ生きられねぇんだよ。奪わなきゃ生きられねぇんだよ。嬲らなきゃやってらんねぇんだよ。
オレは悪くない、耶万が悪いんだ。逆らわず黙って従えば良いのに、押し返しやがって!
大野も久本も使えねぇ。戦ってのは負けたら終わり。だから勝つまで引けねぇ引かねぇ、嬲って奪って殺し捲る。それが戦だ。
采は勝つために生まれた、選ばれた国なんだ。しっかり覚えとけ!
「おろぜぇぇぇ。」
首に縄がグイグイ食い込み、声にならない声が出た。クワッと見開いたままガクッ。両の腕がダランと垂れる。
「さて、放り込むか。」
「悪取様、お待ちください。その骸、海神が御求めのモノかもしれません。」
「そうか。ありがとう、明。」
とっても開放的な特殊索道、それも乙種。
逆さ吊りで風を受けながら、一列で悪いのが運ばれてゆく。為す術も無く一方通行、特別室へ御案内♪
初めは威勢の良い声を上げビチビチ、鮮度が落ちるとシオシオ。最終地点、地獄の入り口? が近づくと真っ青になり、急にジタバタ動き出す。
目をランランさせた肉食獣、揃って大興奮。なのだが一旦止め、社へ急ぐ。
「お待たせしました。」
「海神の使わしめ、甲と申します。この度、お願いがあって参りました。」