10-47 伝えるの忘れてた
悪取社の離れには、引き取られた合いの子が暮らしている。年の順にアサ、ハヤ、チカ。シシ、イコ、ムツ、ナヲ。
スサとヒサは母と暮らしているが、離れで暮らす事になるカモしれない。因みに女児はハヤ、イコ、ムツの三妖。
アサは人として生まれた。他の子は妖怪として生まれたが、人と同じ時を生きる。違いはあっても『妖怪の血を引いた合いの子』なのは同じ。
「ホウも人と同じ時を生きるの?」
四妖、興味津津。
「さぁ、どうだろう。人と同じように生まれて、同じように育ったけど・・・・・・。」
正直なトコロ、良く分からない。
人として生まれたアサ、スサ、ヒサも他の子と同じで生まれて直ぐ、大穴に放り込まれた。けれどホウは人と同じように生まれ、母の乳を飲んで育つ。
大きくなるのも人の子と同じで、遅くも早くもない。
「ふぅん。」
興味を失ったのか四妖、クワァっと欠伸してコロン。そのままスピィ。
「この子たち、生まれたばかりなの。気にしないで。」
ハヤが四妖の腹に布をかけ、ニッコリ。夕餉を食べてオネムだったダケ。シシたちに悪気は無い。
「エッ、そうなんですか?」
どう見ても六つ、いや七つに見える。
「アサもチカも私も、この子たちより早く生まれだダケ。生まれて一年も経ってナイわ。」
・・・・・・三つくらいに見えるけど、シシたちと同じ年に生まれた、と。合いの子にもイロイロ居るのかな。
「ホウも同じだよ。」
チガに言われ、パチクリ。
「皆どれだけ生きられるか分からない。でもね、これからは人と同じように年老いるんだ。人と同じように生まれて大きくなったホウも、これからも人と同じように年老いるでしょう?」
「そう、だと思う。」
「ほら、同じ。」
「そうだね。」
夜更かしせずにグッスリ眠り、朝早く目が覚めた。
悪取社のある明里は海から離れている。とても静かなのに、波の音が聞こえない。当たり前の事なのに少し、寂しくなった。
「おはよう、ホウ。」
「おはよう、アサ。」
社を通って来たのだから、いつか会牧へ行けるだろう。明里の子になったんだから、明里で暮らして明里で死ぬ。
会牧の海がどんなか知らないけれど、浦辺や松田の海とは違うハズ。違う海を見て会牧を懐かしむのは当たり前。
見る前からアレコレ考えても、どうにもナラナイよね。分かってる。でもいつの日か、ほんの少しでも良い。明里に来て良かった、楽しかったと思って欲しいんだ。
「おや、早いね。」
明、お目目ショボショボ。
「おはようございます、明さま。」
「おはよう、アサ。ホウ、良く眠れたかい?」
「はい。ありがとうございます、明さま。」
悪取神の使わしめ、明さまは赤い目をした白い犲。祝の力なんて持ってないのに、どうして見えるんだろう。
言の葉も解るし、どうなってるのかな。
「そうだよね。でも明里の皆、見えるんだ。」
「へぇ。・・・・・・ん?」
「アッ、私には心の声が聞こえるんだ。ハヤは考えるのが早くて、すばしっこい。チカは軽やかに動けるんだよ。ごめんね、伝えるの忘れてた。」
悪取神も明さまも隠。悪取神は国つ神で、明里王でも在らせられる。
長も臣も頭も人。長はカハさん、大臣はヒシさん。スサはカハさんの、ヒサはヒシさんの子。
他にも人が多く暮らしている。
ココは明里、会牧では無い。殺されず生かされ、引き取られたんだ。この手で明里を守ろう、力を尽くそう!