10-45 他で生まれていたら
数は多く無いのだが、合いの子が流れ着く事が有る。
大きな頭に小さな体、ギザギザの歯。舟の中で生まれ母を食らい、他の人も食らったのか力が強い。
気を失っている間にギリギリ縛り、合いの子を入れる獄に放り込む決まりだ。
「ウギャ。」 ダシヤガレェ。
「ビギャァ。」 メシクワセェ。
「煩い。」
会牧の社の司が、冷たい目をして言い放つ。
「ツガさま。コイツら、何て。」
「他の合いの子と同じですよ。皆さん、構え。」
狩り人たちが弓に矢を番え、グッと引く。
「放て。」
シュン、トサ。シュン、トサ。シュン、トサ。
「ギャッ。」 ナンデ。
眉間や心臓に矢がブサブサ刺さり、ピクピク。サッと開いた扉から、斧や槌を持った樵が乱入。迷わず叩き割る。
死んだのを確かめると具を持った手ごと、祝人に流し清めてもらう。それから手渡し口を覆っていた布、脱いだ着物をポポイ。
飛び散ったアレコレを洗い流しっこ。良く乾いた枯れ枝などに火をかけ、ミンチになった合いの子は獄ごと燃やされ根の国へ。
スッポンポンで男たちは海へ入り、ザブンと潜って身を清める。
清めの浜に近づく和邇はイナイ。というより会牧神の使わしめ、アツが怖くて近づけない。
加えて清めの儀が執り行われている間は、使い和邇がグルッと浜を囲む。万に一つもパックンされナイので、心置きなくフルフル出来るのだ。
浦の獄から清めの浜は、ほんの少し離れているので見られる事も。けれど俯かない。『恥ずかしがったら負けだ』と思って胸を張る、ようにしている。
通学路でオープンするのと一緒にしないで。
「増えたな。」
清めの儀を終え、火に当たりながらポツリ。
「あぁ。それに少しづつ、大きくなっている気がする。」
アツアツの串焼きを頬張り、ゴックンしてから一言。
「だよな。」
・・・・・・。
考える事は皆、同じ。大きな戦が始まる。
狙われているのは中の東国だが、火の山島に押し寄せるカモしれない。そうなったら戦うが、守り切れるだろうか。
鎮の西国や中の西国の兵は、初めから中の東国を目指して舟を出す。『遠いからココで良いや』と、狙いを変える事は無いだろう。
けれど真中の七国は? いつか足りない兵を補うため、この島を狙うだろう。
「何で戦なんぞ。」
鎮の西国は鎮の西国で、中の西国は中の西国で、真中の七国は真中の七国で戦えば良い。他に目を向けるな、手を出すな諦めろ!
「助け合い、支え合えば良いのに。」
それが出来ないから戦を仕掛け、攻め込むのだ。分かっているが解らない。
狩り人は獣を狩り、釣り人は魚を獲る。樵は森に入り、木を切ったり育てたり。生きるためにイロイロするが、食べるだけしか奪わない。
戦好きは食べるためでは無く、楽しむために奪っているように思う。
何が楽しいかサッパリだ。けれど考えつかない、思いもシナイ。殺した誰かの後ろには親に兄弟、姉妹。爺婆、縁の人だって居る事を。
「西国や七国では『嫌だ』って、断れないのかな。」
合いの子だって、人として生まれていれば殺されなかった。人を食らった合いの子とは暮らせないから、殺すしかナイ。殺さなければ必ず、誰かが食い殺される。
妖怪に襲われた人から生まれる合いの子。生まれて直ぐ親から引き離されれば、人を食らう前に引き離されれば社に引き取られ、人と共に暮らせるのに。
オレたちが殺した合いの子は皆、人を食らうバケモノ。もし取り上げてくれる妖怪が居たら、国守が居たら違っていた。
「ココで生まれたから言えるんだ。他で生まれていたら・・・・・・、違ってたんだろうな。」
パチパチする火を見つめ、男たちが頷いた。