10-42 出来る限りの事を
鞣里にも張り巡らせている。が、少ない。
「増やすか。」
いや、増やすのは片付けてから。鞣里に糸が伸びている。ソレを太く、強くすれば良いダケの事。そう掛からない。
隠れ住むのは二十ほど。悪しいのを残らず取り除けば、良い行いを・・・・・・するなら初めから歪まないか。
まぁ、モノは試し。
「すぐ戻る。」
「はい。」
柞の大木に登り、糸の上をビュンと飛ぶように駆けた。鞣里に着くと息を吐き、クワッ。『悪取の力』でゴロツキから、悪いのを残らず奪い取る。
十三人は闇堕ちしていたので、胸を押さえながら死んだ。残りは苦しみながら身悶え、動かなくなったが息はある。
神は闇堕ちすると妖怪になるが、隠は何があっても隠。悪取は隠。
殺そうとして力を揮ったのでは無く、救いの手を差し伸べたダケ。何の障りも無い。
「フゥ。ん、んん?」
闇を奪ったのに、骸からモヤモヤが広がった。
「これはイケナイ。」
急ぎ鞣里を囲い、清める。生き残りから薄っすら出るが、その度にシュッと消えた。出て消え、出て消えを繰り返し、生き残りも死ぬ。
「悪さしなければ生きられないなんて。」
松田も酷かったが何だ。耶万に滅ぼされるような国だ、悪いのだろう。
皆が悪いのではナイと思いたいが、人から闇が溢れるなんて、どんな育てられ方をしたのだろう。
「引き取った子が歪まぬよう、シッカリしなければ。」
飢えさせない凍えさせない、死なせない。言うのは容易いが行うのは難しい。それでも諦めず、出来る限りの事をしよう。
「ただいま、明。」
「おかえりなさいませ、悪取様。」
柞の洞からピョンと出て、尾をフリフリ。
犬っぽい? 尾がクルンとしているのが野で生きる犬、垂れているのが山で生きる犲。白毛赤眼の明は白子の、隠の犲です。キュルルン。
「おや、どなたか。」
「はい。憑き蛇の照さまが、少し前に。」
蛇谷の祝に憑く蛇の御名も、照だったな。
白い森に隔てられ、行き来は無かったが蛇谷と犲の里は似ている。
森に守られた豊かな地で、穏やかな人が幸せに暮らしていた。どちらも耶万に内から壊され、大王に。
私は男だが、蛇谷の祝は女。
「社憑きかな。」
「いいえ。耶万の社の司に憑く蛇です。」
なんと!
「おまたせしました。隠の国、明里王、悪取です。」
「耶万の社の司、アコの憑き蛇、照です。」
「人の世で御会い出来るとは。」
「明里。」
時は戻らないと解っていても『松田に攻め込まれなければ』『戦が無ければ』と今でも考える。照さまも同じだろう。
耶万の子に憑いたというコトは、蛇谷の祝は耶万で・・・・・・。
「アコと名を付けたのは、祝ですか?」
「はい。『男でも女でも、私の愛しい子だから』と。煇が命と引き換えに残してくれた宝です。」
美しく微笑んでいた照がスッと、真顔になった。
「悪取神、お願いが御座います。」
「お願い?」
「はい。真中の七国から光江に、多くの兵が押し寄せます。アコが闇に呑まれる事はありません。けれど強すぎる闇から守れるホド、強くないのです。」
耶万で酷い扱いを受け、真っ直ぐ育つワケが無い。歪んでいるのだろう。
「闇が溢れる前に御知らせください。悪取の力を揮いましょう。」
「ありがとうございます!」