10-41 何も無いハズだが
津久間、畏れ山、斑毛山の統べる地を飛び回り、力を揮われたのだ。もうクッタクタ。悪取社に御戻り遊ばすなり、バタンキュゥ。
松田に滅ぼされた里の一つ、鞣里。犲の里と同じで諦めず、松田に逆らい続ける。生き残りは『松毒』を飲まされ、苦しみながら死に絶えた。
骸は葬られず獣に食い散らかされ、人の味を覚えた獣が住みつく。
「ケッ、何も無いな。」
売られた先から逃げ出した采や大野、安、光江、悦の生き残りがワラワラ集まり、獣を狩って暮らし始めた。モチロン無許可。
攫った人を奴婢とし、アチコチに売り捌いていたゴロツキである。
売られた先でも悪さして、多くの命を奪ってきた。穢さず引き渡すので、買い手からの評価は高かった。けれど外道である事に違い無い。
「そう言うなよ。浦辺に住みついたのはバケモノだ、生きたままバリバリ食われるぞ。松田、松裏に罠を仕掛けたのも同じバケモノ。人が束になっても勝てない。」
当たっているような、外れているような。
「良いのが揃ってたのになぁ。」
悪意を持って近づけば即、逆さ吊りで松裏の獄へ放り込まれる。イッパイになったら人を食らった合いの子が放り込まれ、生きたままバリバリごっくん。
「ココまで逃げ込めたんだ、良いじゃないか。」
松川の源の泉が真中にあるので、悪い事を考えなければ海から入れる。その数、ザッと二十。まだまだ増えるだろう。
「『耶万の勢いが戻った』って、真か。」
人の長である社の司が、耶万をシッカリ見張っている。悪さすれば闇を植え付けられ、育てばバン。
かつて滅ぼした国は従えるのでは無く、組み込む事で支え合えるように変えた。言うまでもナク采、悦、大野、光江、安は除く。
あの五つは腐りきっている。
生まれた時は真っ新でも、育つとグニャリ。ナゼだかサッパリ分からないが、『悪さしなければ生きられない』としか考えられない歪みっぷり。
だから組み込むだけ組み込んで、従える事にしたのだ。
「あぁ。光江と悦に忍び込んだが、ガッチガチに固められていた。ありゃ祝の力だな。」
ギラン。
「売れるぜ。」
「やめとけ、死ぬぞ。」
共に忍び込んだヤツが同じ事を考え、整ったのを攫おうとした。すると何かが飛んできて、ソイツから勢いよく芽が出る。
アッと言う間に花が咲き実をつけ、バンと弾けて飛び散った。
「アレが何なのか分からないが、頭の中で響いたよ。『手を出すな』って。」
這うようにして舟に戻り、セッセと漕いで戻った。思い出したダケで、今でもブルブル手が震える。
あんなの、祝の力でなければ何なんだ。神か?
「お、脅すなよ。」
・・・・・・ん。あぁ、戻ったんだ。
「おはようございます、悪取様。」
「おはよう、明。何か変わった事は?」
「加津の国守が『松川の源の泉に、闇が集まっている』と。腰麻の妖怪の祝が確かめに行ったトコロ、『悪そうなのが二十ほど、隠れ住んでいる』のを確かめました。」
張り巡らされた罠に掛からないので、まだ悪い事は考えてイナイ。そう考えて月の夜、タッと見に。
アレはイケマセン。悪そうな顔に、夜でもハッキリ判るホド濃い闇。気付かれないよう引き返し、お待ちして居りました。
「松川の源の泉。」
「はい。ココが松裏、ココが松田で、コレが松川。で、この辺りです。」
前足で地をクリクリして、爪でグゥっと線を引く。それからポンポンと、里があったトコロを示した。
「鞣里も朽ち果て、何も無いハズだが。」
「はい。家も囲いも朽ち果て、空っぽです。」
源の泉があるので、隠れ住むには良いダケ。