10-38 やってられない
良那を落とすには岸多に勝たなければ。
近海、大浦、万十、氛冶も欲しいが、強すぎて手が出せない。耶万を落とそうと光江に攻めれば、アッと言う間に殺される。
加津にも千砂にもバケモノが居るし、浦辺もアヤシイ。何かコワイのが住みついた。
松田に送り込んだ兵は一人しか戻らない。戻ってもガタガタ震えて、使いモノにならない。
ハァ、何が起きている。何が有る。
松田は耶万に滅ぼされ采、安、大野のゴロツキが光江、悦の生き残りと隠れ住み、アチコチから攫ったのを集めている。
そう聞いたが、違うのか?
ゴロツキが兵に勝てるワケが無い。戻ったのを調べたが、毒は出なかった。
松裏を目指したヤツは戻らず、松毒も手に入らず、兵を送れば送るホド苦しくなる。
「加津でも千砂でも浦辺でも良い。バケモノを捕らえ、従わせろ。」
倭国の新しい大王が命じる。けれど大臣、臣たちも黙って俯き動かない。いや、恐ろしくて動けないのだ。
「どうした。」
伝え聞くトコロによると膨れ弾けて死んだ者は皆、耶万のに闇を植え付けられたトカ。弾けた実から種が飛び、周りに居た人に。
それが育って、ポンと葉を開くとも。
加津も千砂も耶万に破れ、組み込まれた。浦辺は松田に滅ぼされたが、加津とも千砂とも付き合いがあったと言われている。
そんな地に手を出せば何れ、体から芽が出て・・・・・・。
「何とか言え!」
揃ってバッと顔を上げ、ギッと睨みつける。
「恐れながら申し上げます。大貝山の統べる地、いえ中の東国から引きましょう。どれだけ兵を送っても、あの地は取れません。奪えません、勝てません。」
大臣が言い切った。
「この腰抜け! 目障りだ消えろ。」
フッと鼻で笑い、頭を下げてスタスタ。他の者も続き、残ったのは血の気の多い戦好きダケ。
コンコン。
「ごめんください。津久間から参りました、緑と申します。」
明は犲。夜行性なので、昼間は柞の洞で休んでいる。悪取社も洞と同じで広いのだが、何となく住み慣れた洞で寝そべり、スヤスヤ。
「悪取社へようこそ。使わしめ、明です。」
サッと毛繕いしてからシュタッと下り、ニコニコ。
「はじめまして、明さま。悪取神へ御取次を。」
「はい、暫くお待ちください。」
小さな器に湧き水を注ぎ、スッと出してからニコリ。
悪取は神だが、明里王でもある。明里の中心に建てられた社ではなく、横に生えている柞の大木に居る事が多い。
里から張り巡らされた糸はグルグル廻り、悪いのをヒョイ。合いの子はタプタプ袋、悪い人は松裏の獄にポイッ。獣はプランと逆さに吊られ、里まで運ばれる。
「悪取神。津久間神の使わしめが、御目通りをと。」
「ありがとう、明。鳥がこんなに掛かったよ。」
「わぁ、美味しそうですね。」
畑や開けた地に居た子を狙い、空から急降下。美味しく食べるツモリが、美味しく食べられるコトに。
「お待たせしました。」
悪取は獲物を洞に置き、明と仲良く社へ。
「津久間神より言伝を預かって参りました。」
蜷局をシュッと巻き直し、ペコリ。
津久間神は緑を司る神で、人の絶望から現れ出られた。強面で禍津日神っぽいが、直日神で在らせられる。
因みに使わしめ緑は、草蛇の隠デス。
津久間の統べる地は中の東国の西端に位置し、北は畏れ山の統べる地、南は海に面している。
東は大貝山の統べる地、西は真中の七国。・・・・・・西側は閉ざし続けたかった。案の定、開いたら押し寄せました。
もう嫌、閉ざしたい!
「津久間の地に、新たな合いの子が?」
「はい。それもポコポコ、次から次に。」