10-37 何かが違う
無いモノを求めても辛いだけ。好いた子に好かれるとは限らない。オレたちも同じ、新たな合いの子。
人と妖怪から生まれた合いの子とは、何もかもが違うんだ。加津のイイさんに会って、嫌というホド思い知ったよ。
妖怪の血が濃いと力も強い。
オレたち老いたら、老いた人と同じように動けなくなる。けど血の濃い、強い合いの子は違う。死ぬまで動ける、守れるんだよ。親と同じ国守になれる。
「シシたちは生まれて、そんなに経ってナイだろう。それにさ、女に選んでもらえるような男になればイイだけの事。そう落ち込むな。」
「選んでもらえなかったら?」
「選んでもらえるよう、努めれば良い。」
「それでも選んでもらえなかったら?」
「女でも男でも己を慈しめないと、誰も慈しめない。だから、己を好きになるトコロから始めよう。」
「・・・・・・分かった。」
ズビッと鼻を啜り、手で涙を拭ってシュタッ。
「顔、洗ってこい。」
「うん。」
タッと駆け出し、水を汲んでバシャバシャ。
体は大きいが人なら嬰児。泣いたり叫んだり駆け回ったり、分かりやすくて良いじゃないか。これからもっと、もっと増える。
人と暮らしているのは明里と浦辺だけど、そのうち他にも作るだろう。
北は白い森、南は海。東は大磯川、西は椎の川。
松田の縄張りだった地が丸ごと、明里になったんだ。祝の力や闇の力は無いけれど、明里の民として出来る事をシッカリする。そのために生まれたんだ。
「ん、近いな。」
声が小さいし多いから、舟で来る。でもオカシイ。何でだろう、モヤモヤする。
「わぁぁい。」
「ナヲ、どこへ行く。畑はドウした。」
「飽きた。」
・・・・・・ハァ。
「オレ、狩りがしたい。」
「そうか。しっかり働いて認められたら、狩りに連れて行こう。分かったら戻れ。」
「うん。」
スサもヒサもオレたちも、シシたちとは何かが違う。何と言うか落ち着いている、ような気がする。
これから生まれる合いの子も、あんな感じなのか? それともシシたちが他と大きく違うのか。
「考えるのは後回し。今は海、舟に乗っているのは合いの子。人を食らい尽くして、共食いを始めた。」
浦辺の畑から森を抜け、海が見渡せるトコロへ走る。目を閉じ耳を澄ますと少しづつ、ハッキリ聞こえるようになった。・・・・・・マズイぞ。
クワッと見開き、社へ向かう。
ハヤには負けるがアサだって、その気になれば速く走れる。獣に出くわさないようにタッタ、タッタカ、ピョン。
「悪取様! 松田に飢えた合いの子が流れてきます。共食いを始め、舟で暴れてます。『腹減った』とか『食い足りない』とか、口に出さず!」
「ありがとう、アサ。良く知らせてくれた。」
『獣の力』で鳥の目を借り、大きく揺れる舟を見る。足を踏ん張り、戦っているようだ。
「アサ。浦辺に戻って海から離れるよう、皆に伝えておくれ。」
「はい、悪取様。」
海に出ていた人が浦辺に戻って直ぐ、松川に舟が二隻、吸い込まれるように入った。
乗っていたのは戻れない合いの子。一体づつ編んだ糸で捕らえ、タプタプ袋へ放り込む。
「ギャァァ。」
暴れて暴れて袋を破き、ドシンと落ちてビシャッと浴びる。
残りも片付け静かになったが沖に三隻、いや四隻こちらへ。乗っている生き残り全て、飢えた合いの子。