10-36 違うんだから羨むな
津久間に生きて戻るハズだった八人は死んだので、耶万から届いた舟は浦辺に運び込まれる。漁に使うには大きいけれど、いつか使うだろうと。
「どうして。」
人と同じ時を生きられるケド、人と妖怪の合いの子。その合いの子だから薄いハズ。それでも人とは違う。
「嫌だよね。」
孕ん子を流せないと知って母さん、何を思ったの。父さんは母さんが好きで、離れたくなくて明里まで。
「見たくないよね。」
嫌なのが出てスッキリした? 引き取ってもらえて良かった。そう思ったよね。
「捨てたの。」
お別れも言わず、黙って。妖怪の子なんてイラナイから捨てた。そうなの?
親に捨てられた。そりゃそうだよ、妖怪の子だもん。父さんの子なら津久間を離れず、みんな幸せに暮らせたのに。
形だけでも良いから、お別れが言いたかった。抱きしめられなくても、撫でられなくても良い。『さよなら』と手を振って、見送りたかったよ。
困るよね、ごめん。
真中の七国ってドウなってるの。妖怪が人を襲って、合いの子を産ませた。その合いの子が人を襲って、新たな合いの子が生まれた。それがオレたち。
人と妖怪の合いの子より薄いから、他と違う力を持たない。
もし、もし何か持って生まれていれば。いや違わない、同じだよ。だってさ、人と同じ時を生きられるダケの妖怪だぜ。
人として生まれたアサが、心の声が聞こえるアサが珍しいんだ。凄いんだ。
あれ、おかしい。
人と同じ時を生きるハヤは賢く、すばしっこい。人と同じ時を生きるチカは力持ち。オレたちも人と同じ時を生きるのに何も無い、何も持ってない何も! 何でだよ、何が違うんだよ。
オレたち四妖がオカシイのか、足りないのか。
・・・・・・望まれずに生まれったのは同じだろ? 同じだよな。
アサもハヤもチカも親に捨てられた。言の葉を交わして抱きしめられたらしいケド、捨てられたのは同じじゃないか。なのにナゼ、オレたちには何も無いんだ。
ねぇ、なんで?
「見て見て、織れた。」
「わぁ。こんなに美しい布、初めて見たよ。」
「うふふ。ありがとう。」
良いな、羨ましいな。
あの子たち、大きくなったら契るんだろう? 親に見送られて、手を繋いで来たんだ。津久間から明里に移り住んだんだ。アッチでもコッチでも仲良く並んで、楽しそう。
六人とも好いた人と居る。十二人の子が幸せそうに見合い、笑っている。
「オレたちも。」
同じように・・・・・・なれないよ。
イコもムツも女だけど、オレやナヲを選ぶとは限らない。分かるさ。揃ってウミを見つけ、ポォっとしてるモン。二妖ともウミが好きなんだ。
「シシ。何か言え、シシ。」
「えっ、何か言った?」
「『何か言った?』じゃナイよ。スサとヒサを手伝って、畑の事を覚えるんだろう。」
「ハイ。ごめんさない、アサさん。」
良いよな、心の声が聞こえ・・・・・・。
「聞こえるよ。人の子は人の子、合いの子は合いの子。違うんだから羨むな。辛くなるダケだぞ。」
「アサさんには分かんないよ!」
「そうだな。けどな、シシ。イコ、ムツ、ナヲだって出てないダケで、何かを持って生まれたかも」
「そんなの無い。」
「今は無くても、そのウチ出るカモしれないよ。」
「止めてくれ、聞きたくない。」
シシが叫び、屈んで泣き出した。