10-35 外野は黙るしか
腰麻。耶万に滅ぼされ、民がバラバラになった国。死んで妖怪になった祝が血眼になって、生き残りを探し回った。
犲の里にも訪れている。
「はじめまして。腰麻の妖怪の祝、ユキと申します。」
「はじめまして、明里の悪取です。人として生きていた時は犲の里、御犬社の祝でした。」
「はじめまして。悪取神の使わしめ、明です。」
頭を上げ見合い、ニコリ。
「犲の里、覚えています。良かった。生き残った人が戻って、社を組み直したのですね。」
酷く荒らされ、里の外れに墓がズラッと並んでいた。誰かが手厚く葬り、立ち去ったのだろう。そう思い、花と水を供えた。
松田に滅ぼされた里や村、国の者は奴婢となり、言えないような扱いを受けるらしい。その生き残りだ。腰麻に出来る限りの事をしよう。
「・・・・・・いいえ、死に絶えました。明里の民は他では生きられない、生き難い人たちです。中には望まれず生まれた、合いの子も。」
「まぁ! 合いの子まで。」
「はい。私に授けられた力、『悪取の力』で悪しきモノを取り除きました。合いの子ですが人として生まれたり、人と同じ時を生きる子が生まれたのです。」
「それは良い力ですね。私は『光の力』を失い、『闇の力』を得ました。死んだ者は救えませんが、生きていれば『癒しの力』で救えます。」
「それは凄い。どうでしょう、ユキさま。明里と腰麻を結び、助け合いませんか。」
「はい、喜んで。」
犲の里は千砂と、浦辺は加津と付き合いが有った。妖怪の祝も国守も居ないが千砂、加津が後見となり、明里と腰麻が結ぶ。
耶万、良那、岸多、早稲の社の司からも祝われたのだ。外野は黙るしか無い。
隠の国『明里』の話はアッと言う間に広まり、鎮の西国と中の西国、真中の七国の神神、集い座して大騒ぎ。
やまと中で大事に? なりません。なぜなら大蛇神が御認め遊ばし、人の世に隠の国、明里が建てられたのだから。
キャンキャン吠えても相手にされず、ムッキー!
海社、殺社、吹出社から贈り物が届き、闇が溢れても大丈夫アピール。ギャフン!
和山社に訴えるも『人の世の事は人の世で』と返され、グウの音も出ない。トホホ。
「松田から『松毒』を奪え。」
笠国、駒国、剛国、倭国、瀬国、飛国、保国。七人の大王は焦っていた。
どんな手を使ってでも真中の七国を纏め上げ、大王の中の大王にならなければイケナイと。
『耶万の夢』により、多くの兵を失った。アレより強い毒を求め、風見を騙そうとしたのに知られる。
早稲に仕掛ける前に気付かれ、一人しか戻らなかった。風見にも早稲にも勝てない。ならドウする。
「長を生け捕りにし、タンマリ作らせろ。」
確かな話だ。松田に滅ぼされた里の生き残りが、松田に国を建てた。ソイツが持っている。松毒の全てを。
松田は耶万に滅ぼされた。大王は耶万王に殺され、松田の生き残りは『耶万の夢』で死んだ。
が松裏に逃げ込み毒を持ち出し、守り抜いたのが居る。ソレを捕らえ、耶万を脅したのだ。そうに違いない。
「申し上げます! 松田から兵が戻りました。」
戻ったか。手に入れたか、松毒を。
「連れてこい。」
引き摺られるように連れて来られたのは、兵頭だった男。ガタガタ震え、キョドキョドしている。
「あ、あの地に居るのはバケモノです。どんなに兵を送っても勝てません。勝てるワケない、殺される。食い殺されるぅぅ。」
頭を抱えて泣き出した。ブツブツ何か言っているが、さっぱり分からない聞き取れない。
「松毒は。他の兵は。」
「三人戻りましたが皆、震えるばかり。頭がオカシクなったのか、使えません。」