10-34 ごめんください
長引くと思われた手続き、サクサク進んで大貝社からも認められました。
人の世に建てられた隠の国、明里。旧松田領を治める王は悪取、臣は明。
「良かったですね、悪取様。」
「ありがとう、明。これからもヨロシクね。」
「はい。」
キラキラキラァァ。
「おや、何だろう。体から光が。」
「悪取様、私も輝いてマス。」
アレコレ進めている間、明里の民が祈りを捧げ、心の底から望んだ。『悪取様を神に』と。
「ん、社。」
松田の兵に蹴り壊された御犬社が組み直され、柞の木ごとキラキラ輝いている。
洞から出た悪取と明が中を覗くと、スッと引き込まれた。
「ここは。」
祝になった時、一度だけ招き入れられた。間違い無い。ココは社だ、御犬社だ。
「御犬様、隠犬さま。」
シーン。
「御戻り遊ばしたのでは、無いのですね。」
「皆を導き、守るのです。」
御犬様?
「これからも清らに生きなさい。」
隠犬さま?
「明里、笑え。」
里長?
「ありがとう。」
みんな笑ってる、幸せそうに笑っている。生きていた時のまま、美しい姿で。
父さん母さん、社の司、継ぐ子たち。ずっと前に旅立った人たちも隠になり、里に戻ったんだね。側に居たんだ、居てくれたんだ。これからも、ずっと。
「良い国にします。人も隠も妖怪も飢えず、怯えずに暮らせる。そんな国にします。」
皆の姿が光の粒になり、スッと消えた。
「悪取様、明を使わしめに。悪取神に仕える隠として、力の限り尽くします。」
キュルン。
「明、私は神になったのだろうか。」
「はい。ほら、お聞きください。皆の声を。」
明に言われ、耳を澄ます。すると・・・・・・。
「私は津久間から明里に越してきた、ユウと申します。悪取様に救われ、メイもウミも笑ってくれるようになりました。」
「私たちにとって、悪取様は神さまです。いろんな神様。悪取様を神と崇める事、御許しくださいませ。」
「私たちは津久間で、とても言えない事をされました。けれど悪取様に救われ、明里でグッスリ眠れます。悪取様、私たちの神様になってください。」
「津久間に居た時は眠れませんでした。怖くて恐ろしくて、水も飲めなくなりました。でも悪取様に救われ、悪いのが消えたんです。悪取様は神様です。」
「津久間の神様、悪取様は良い神様です。ボロボロになった私たちを救い、受け入れてくださいました。神様は見えないけど、悪取様は見えます。でも神様です。」
「一度は闇堕ちした、けれど、もう吞まれない。皆を守る。だから明、私に仕えておくれ。」
「はい、喜んで!」
明が、明里の皆が望んでくれた。
国を治めるのは人に任せ、私は王として神として明里を守ろう。どんなに掛かっても、どんな事が起きても諦めず、明里を豊かで暮らし易い国にするんだ。
「ごめんください。腰麻のユキと申します。石が光ったのですが私、ソチラへ伺った事ありますか?」
「さぁ、どうでしょう。よろしければ、こちらへ。」
「はい。」
腰麻の団子を持ったユキが、ヒョコっと顔だけ出した。瞬きしてから社に入り、頭を下げる。