10-32 力の解放
また来た。真中の七国は『耶万の夢』で人が減り、兵を送るドコロでは無いハズなのにナゼ。
海から松川に入り、流れに逆らう。兵の目は血走り、歯を見せている。妖怪では無い、合いの子でも無い人。なのに何だ、あの荒々しさは。
獣のように涎を垂らし、ギラギラしている。
「毒を強めたか。」
毒も使いようで薬になる。考えなしに用いれば、人を壊す事も出来る。
早稲は昔から積み重ねているが、真似て使えば人を獣に変えるだろう。ソレを知っているから風見は、あの早稲と結んだ。
『耶万の夢』を使えるモノにしたのは早稲。ソレを強めたのが耶万。
「松毒。」
『耶万の夢』より使えるモノを作り出そうと、いろいろな草、毒を集めた。松田は滅ぼした里や村、国の人を奴婢にして試す。そうして出来たのが『松毒』。
散蒔く前に滅んだから、どうなるのか分からない。けれど似ている。犲の里を襲ったヤツら、涎を垂らないダケで同じ目をしていた。
「片付けよう。」
墓を掘り起し、骸を穢すようなヤツらが作ったんだ。良い品であるワケが無い。燃やすか、押し寄せる兵に使うか。
「迷うな悪取。民を、明里を守れ。」
『獣の力』で見聞きし、敵を知る。『悪取の力』で糸を伸ばし、兵の足裏から『滅びの力』をタップリ注ぐ。
松田で飼っている合いの子が気が付いた。嬉しそうに跳ね、両手を地につけ駆ける。
「あぁん。」
人でなくなった兵に飛び掛かり、ガブリ。
血潮を浴びて狂い叫ぶ兵が、他の兵に襲い掛かる。襲われた兵は他の兵を襲い、また他の兵が襲われた。血の雨が降り、踏まれた骸に足を取られる。
ビシャビシャねっとり、ビチャビチャどろり。
「おや。」
兵を食らった合いの子が叫びながら、己の尾を追う犬のように回り出した。コレはマズイ。
新しいタプタプ袋を作り、鼻先にプランと下げる。
ドロンとした目で飛び上がり、笑いながらドボン。毒を食らった合いの子が全て、幸せそうな顔で融けてゆく。
ソレを見た生き残りが救いを求め、袋を剣で切り付けた。
「ギァッ。」
あの毒は合いの子を通して、毒を強めたらしい。タプタプにスッと融け、肉や骨を溶かす水に変わる。ほんの少しでも掛かればジュッと、体に穴が開く。
死にたがる兵がザシュザシュ切って、生き残りに掛ける。
『死の水』がバシャッと広がり、転がる骸から煙があがった。鼻が曲がるホド臭いソレに耐えきれず、獣たちが泣きそうな顔で訴える。
「ありがとう。」
『獣の力』を解くとタッタカ、スッと離れた。
「さて、と。」
明里から松田に飛び、舟の中でガタガタ震えている兵頭を捕らえる。
生き残りは十人ほど。怯えた目をしているが涎は垂らしてイナイので、毒を飲まされなかったのだろう。
「よく聞け。私は悪取、この地に隠の国を建てた。引け、そして伝えろ。『大国だろうが何だろうが、敵と見做せば消す』と。」
ジョワァ。
「漏らすホド怖いか、恐ろしいか。」
目が左右に動き、歯はカチカチ鳴っている。
この地にバケモノが居る事は伝わるだろうが、また兵を送り込まれると困るんだ。子らが漁に出られない。
「答えろ。ドコから来た、七国か。」
コクッ、コクコク。
「『答えろ』と言ったハズだ。」
「ひゃい。なっなくに、の。ゴクン。ここっ、剛国。」
真中の七国、中の西国寄りの大国である。
「お、なじく。ゴクン。しっ、倭国。」
コチラは中の東国寄り。