10-31 お話します
エッ、どうして。
捨てられるのは知っていた、気付いていた。でも少し待てば大きな舟が届いて、加津の国守が津久間まで。
「良く聞くんだシシ、イコ、ムツ、ナヲ。父も母も死んだ。四妖とも明里の子だ、私が引き取り育てる。明里で生まれ、明里で死ぬ。他の地へ引っ越す事も、迎えられる事も無い。」
ゴクリ。
「人と暮らせるのは、妖怪の国守に引き取られた合いの子だけ。私は隠で妖怪では無い。この地に妖怪の国守は居ない。」
ウルウル。
「血の繋がりは無くても私が親だ。良いかシシ、イコ、ムツ、ナヲ。しっかり学んで強くなれ。人と同じ時を生きるんだ、人を守れる力を身に付けろ。」
四妖が見合い、力強く頷いた。
八人の死と、シシたちに伝えられた事を知らされたのは朝餉の後。ヤンチャ四妖が静かなのは、親の姿が見えないからだと思っていたが違った。
舟を盗んで戻ろうとした? なぜ待てなかったの。耶万から大きな舟が運ばれてくる。少し待てば、津久間へ運んでもらえた。なのにナゼ。
「ねぇカハ。私、考えたんだけど。」
「なぁに、ヒシ。」
「明里に犲の里の、壊された社が在るんですって。アサから聞いたのよ。悪取様は隠で、神では無いって。」
「・・・・・・そう、だったのね。」
祝の力なんて無いのに、なぜ御姿が。ずっと解らなかった。でも、そう。そうだったの。
神は人の望みから現れ出られる。祝女だった婆さまが教えてくれた。『悪取様を神に』と私たちが望めば、神に御為り遊ばすのかな。
「浦辺から明里は遠いけれど、チカに頼めば運んでくれるって。」
「アサから詳しい話を聞きましょう。幾らチカが力持ちでも、ヒシや私を運ぶのは疲れるハズ。子でも良いなら、子に頼みましょう。」
「そうね。というコトよ、アサ。」
「はい、お話します。」
シシたち四妖を押さえられるのはアサ、ハヤ、チカだけ。ハヤとチカが目を光らせているが、早く纏めた方が良いだろう。そう考え、ジッと待っていた。
盗み聞きしていたのではナイ。
犲の里。その真中に在る石積みの社、御犬社は松田に壊されバラバラになった。悪取様と明さまは家ではなく、社の横に生えている柞の洞で御暮らしだ。
もし人の手で組み直され、悪取様を神にと願えば悪取社となり、他の社と遣り取り出来るらしい。
聞くトコロによると千砂社、加津社に加え会岐社、大石社、腰麻社とも結び、行き来できる。
耶万社と声の遣り取りが出来るトカ。
その結びに悪取社も加われば、悪いのが押し寄せても助け合える。明さまが千砂や加津まで走らなくても、明里へ飛んで社を通せば良い。
人の手でなら子でも良い。
ウミに話したら、『大人の許し無く行うのは良くない』と言われた。だからヒシに話し、大人の考えを聞こうと。
「良く解ったわ。ウミの言う通り、これは皆で話し合い、決めなければイケナイ事よ。」
カハが言い切り、ヒシが頷く。
「良い話じゃない。ねぇ、ユウ。」
「メイの言う通り、良い話だと思う。偉いぞ、ウミ。」
大人を巻き込んで進めなければイケナイ話だと、流される事なく言い切った倅を褒める。ウミは父に褒められ、チョッピリ照れた。
「スサも手伝うよ。」
カハを見上げ、『褒めて』と目で訴える。
「ヒサも手伝う。」
ヒシを見上げ、ウルウル。
スサもヒサも抱きしめられ、嬉しそう。俯いた四妖の手をアサたちが握り、優しく微笑んだ。