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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
明里編
902/1586

10-30 朝の儀式


海から松川に入り、松田に流れ着く。そんな舟に乗っているのは、人を食らった合いの子たち。食われず生き残る人は少ない。


生きておかに上がったのは五人。二人は産んで直ぐ、死んでしまった。



あれからも幾隻か流れ着いたが、生き残りは一人も。


人を食らった合いの子をタプタプ袋に放り込み、食い散らかされたむくろを葬る。その繰り返し。






「愚かだな。」


もう少し待てば、生きて津久間に戻れたのに。舟が加津に着いたら、ミカさんが浦辺まで。そう決まっていたのに、キチンと伝えたのにナゼ。


悪取あとり様。八人、逃げ回って。アッ。」


あけみは日に日に力を増し、旧松田領内であればドコに、どんな生き物が居るのか判るようになった。


「人の味を覚えた合いの子は、飢えた獣より恐ろしい。松田からは出られないが、グルッと囲もうか。」


「そうですね。あの辺りを囲めば、明里あかりや浦辺を合いの子から守れます。」






こんなハズじゃなかった。夜明けと共にココを出て、津久間に戻れるハズだったのに、なぜ。


痛いイタイ痛いよ、助けて。誰か助けて、誰でも良いから助けて。



「な・・・・・・ぇ。」


何で、何でよ。人の姿をしている。獣じゃ無い、人でも無い。コレが合いの子? あの子たちと違う。あの子たちも襲うの、人を食らうの。


「い、や。」


生きたまま腹を食い破り、腕をぎ足を捥ぎ、噴き出す血をガブガブ飲むの。そうなの? ねぇ、そうなの。


「た・・・・・・ぇて。」


助けて。お願い、死にたくない。津久間に戻って、一から遣り直すハズだった。幸せに暮らすハズだった。


「ち・・・・・・ぁう。」


あの子は私の子じゃない、バケモノの子。悪取様に引き取られ、同じようなのが居る。だから良いじゃない。


「ご・・・・・・めん。」


母さん、ごめん。オレ愚かだった。津久間を出て暫く耐えて、皆を迎えるツモリだったんだ。


「しぬ、のか。」


中の東国ひがしくには強い何かに守られて、妖怪が攻めて来ない。そう聞いたから。






八人は生きたまま食われた。首やのどをヤラレタ二人も苦しんだが、他の六人に比べればマシ。


人を食らって戻れなくなった合いの子が、争うようにガツガツむしゃむしゃジュルジュル。腹は満たされても心は満たされず、獲物を探して彷徨う。



仲良くタプタプ袋にドボンし、ジュッと溶かされながら求めるのは親の温もり。その親を食らい、人の血肉を求めた末に殺された。


何のために生まれたのか、なぜ殺されなければイケナカッタのか、わからないまま消えてゆく。



月明りに照らされて、多くの舟が流れ着く。乗っているのは合いの子と、合いの子に食い殺された親たち。


陸に上がり足をすくわれ、タプタプ袋にドボン。泣きもセズわめきもセズ嘆きもセズ、抱きしめられた事も撫でられた事も無く沈むだけ。






「生まれた地へ戻りなさい。」


松林の真中まなか。松川の側で地に触れ、悪取が呟く。


フワッと魂が舞い上がり、空へ。見送ると骨を拾って葬り、墓に花と水を供える。朝が来るたび淡淡たんたんと。


「おや、また。」


流れ着いた舟に乗っているのは、骸を頬張ほおばる合いの子。気の毒だが死んでもらおう。


生まれる前に来ていれば、幾人いくひとか救えたのに。



よだれをダラダラ垂らしながら、悪取を見据えて駆けて来る。


纏めて捕らえドボン、ドボン。小さな舟を海に流し、塩水を注いでジャブジャブ。清めたら川に沈めて洗い、引き上げ乾かし漁に使う。




「慣れたが、慣れないね。」


溜息まじりにポツリ。


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