10-27 ヒトデナシにバケモノ呼ばわりされるとは
舟が欲しい、か。
明里と浦辺を治めるのは認めたけど、人が増えるのはなぁ。でも妖怪や合いの子に襲われ、傷ついた人を救えるのは悪取だけ。
津久間を出たい、そう思う人を『受け入れるな』なんて言えないよ。
「千砂や加津から助けられ、田畑が整えられた。」
憑き蛇の照に言われ、アコが考え込む。
「ねぇ照、鎮の西国に出来た妖怪の国。里だっけ? 和山社の御許し、いただいたのかな。」
「どうだろう。『人の世の事は人の世で、隠の世の事は隠の世で』ってのが、隠神の御考えだよ。」
「そっか。」
明里を隠の国にするなら、和山社の御許しが要る。悪取は犲の里に戻った。そんな隠が治める国が、他と同じで良いのか?
悪取は隠で、神では無い。人の願いから生まれるのが神。そのうち望まれるだろうが、今はタダの隠。
「アコ、マノさまに会って話し合おう。気になるんでしょう? きっと良い考えが浮かぶよ。」
「そうだね。」
「だぜ、ごごがら、だぜぇぇ。」
タプタプ袋にドボンしたのが、止せば良いのに悪足掻き。
「松田は滅んだ、誰も居ない。なのにナゼ目指す。」
悪取が呆れながら、悪しいのに問うた。
「うるざい、だまれぇ。」
ドロンとした目で睨む。
「ハァ、増やすか。」
タプタプ袋、ポポン。
「ばげもの。」
「ヒトデナシにバケモノ呼ばわりされるとは。ハハッ、思いもしなかったよ。」
何も聞き出せないと知り、後にした。
松林のアチコチに仕掛けた罠には、多くの獲物が掛かる。その多くは采や光江などの生き残り。西から来た兵たち。
耶万から譲ってもらった舟を奪い、壊して何が楽しいのだろう。薪に困っているなら、枯れ枝を集めれば良いのに。
松田の縄張りだった地は広く、白い森と海に挟まれている。枯れ木や枯れ枝、枯葉にも困らない。なのにナゼ舟を壊すのか。
「また譲ってもらえる事になったが、このままでは。」
耶万から贈られるのは西のだから、どれも強くて大きい。千砂が使っているのは川の、加津が使っているのは海の舟。
「叶うなら加津の舟を。」
なんて言えない。
「良いぞ。少し待て、作るから。」
「エッ。」
ミカが闇を伸ばし、樫の木をシュパッ。かき氷を匙で掬うようにサクサク刳り貫き、大人が二人乗れる大きさの丸木舟を作り上げた。
闇で持ち上げ海に浮かべ、シュッシュと細かく削ってゆく。傾きが無くなると飛び乗り、軽くピョンピョン跳ねた。
陸に上がり、舟を引っ繰り返してニコリ。
「ドコに置く?」
「ハッ、はい。浦辺にお願いします。」
「分かった。」
闇を伸ばして一っ飛び。流されないよう、木の辺りに引っ繰り返して置いた。
「ホエェ。」
浦辺に居た子が、目を丸くしている。
「チカ、樫で作った舟だ。強いぞ。」
「ミカさん、ありがとうございます。」
チカが頭を下げると、後ろに居た四妖も真似た。
「海に出る時は、大人に言ってから出るんだぞ。」
「ハイッ。」
慌てて浦辺に駆け付けた悪取、ゼイゼイ。隠だって息切れシマス。
「み、ミカさん。ありがとうございました。」
「喜んでもらえて良かった。」
闇の力を使えば舟くらい、チャチャッと作れるさ。




