10-26 負けを認めろ
津久間の統べる地のアチコチで、大祓の儀が執り行われている。
鎮の西国、中の西国、真中の七国の神は多く御隠れ遊ばし、大荒れに荒れているトカ。
中の東国の真中には、霧雲山の統べる地が在る。
隠の世の嶺、和山社が在るのも中の東国。トンデモナイ何かが起こらない限り、あの地が乱れる事は無い・・・・・・ハズ。
「どうした、永良部。」
蜷局を巻いていた永良部がクイッと頭を上げ、パチクリ。そんな使わしめに声を御掛け遊ばす。
「岸多神。西の舟が、浜木綿の川に近づきました。」
社の司が先見した通り、兵を乗せた舟が岸多を目指している。
「ホウホウ。」
岸多神に一礼し、スッと下がった社の司。長の元へ走り、伝える。長は浦頭、狩頭、山頭、三人の頭に伝えた。
「よくもまぁ、凝りもセズ。」
岸多の狩頭が呆れかえる。
浜木綿の川は大きいが、川は川。両の岸から矢を放たれれば、それダケで手も足も出ない。ドッと乗り込まれ、ギリギリと縛られた。
「捌くか。」
岸多の山頭。斧を振り上げ、艪を使えないように壊す。櫂の代わりになりそうなモノもガンガン壊し、ニッタァ。
「出せぇ。」
浦頭に言われ、水手が『エイヤッ』と舟を流す。
「止めてぇ。」
両の手足を縛られ繋がれ、舟に転がされた生き残りが叫ぶ。泣いても喚いても引き寄せられるように、スゥっと沖へ。
「まだ何もしてナイ。」
一人でも海に落ちれば舟が引っ繰り返り、波に呑まれればブクブク沈んで魚に食われる。
「死にたくない。」
このまま流されれば干乾び、鳥に食われる。
「アァァ。」
兵たちの声を掻き消すように、『エイヤッ』『エイヤッ』と明るい掛け声が浦に響く。
大荒れに荒れた海を進み、火の山島をグルっと回ってココまで来たのに。
松田に入る前に足りなくなって、水と食べ物を奪おうと川を上がった。それダケでナゼ、殺されなきゃイケナイんだ。
奪う気で居た、攻める気で居た、暴れるツモリだった。でもソレだけでナゼ、殺されなきゃイケナイんだよ。
強いモンが弱いモンから奪うのは当たり前。何も悪くない。だから・・・・・・アレ? だからオレたち、殺されるのか。弱いから負けた、弱いから死ぬ。
「ハハッ。」
松田に何も無い事が分かっていて、なぜ向かった。上から言われたから。偉い人に逆らえなくて、いや違う。好きに暴れられる、奪い捲れる、そう思ったんだ。
「アハハ。」
津久間から逃げ込んだ人が居る? 居るだろうが少ない。多く居るワケが無い。兵でもコレッポッチしか残らなかったんだ。
ヒョロイ男や女に子、少ない水と食べ物を積んで漕ぎ出ても、死にに行くようなモノ。
「ハァァ。」
終わった。死ぬんだ、オレたち。多くの人を殺した、嬲った、弄んだ。だから死ぬ、殺される。
クックック。風が出てきた、嵐が来るぞ。
真中の七国から来た舟は、波に揉まれてクルリンパ。一人落ちれば皆、道連れ。思うように水を掻けず、ブクブク沈んでゆく。
『苦しい』『死にたくない』『助けて』など、声にならない声は泡となって海に融けた。
イキナリ耶万に仕掛け、勝ったのは一度っきり。直ぐにアレコレ散撒かれ、多くの兵を失った。
仕入れた食べ物は毒入り、奴婢は病持ち。子は壊れ、使い物にナラナイ。
ジワジワ追い込まれ、それでも引けずに仕掛け攻め続けた末に増えるのは、ガランとした目の骸だけ。
何も言わずに訴える。『負けを認めろ』と訴える。