10-24 その前に先ず
なぜ、なぜだ。
山のようにある国を一つに纏め、強い国にしなければ滅ぶ。海の向こうから攻められ、滅ぼされてしまう。だから我らは力を合わせ、強く豊かな国を建てる。
そうしなければ生き残れない!
「出せ、ここから出せ。」
ガンガン。
「黙れ。真中のドコから来た、ドコへ行く。言え。」
会牧の長が兵に問う。
長は元、樵。前の長に乞われて新しい長になった。生まれは津久間の西、海沿い。飛国に滅ぼされた里の生き残り。
「ハッ、知ってどうする。」
嵐で食べ物を失った兵の生き残りが、鼻で笑って睨みつける。獄に放り込まれているのに、己が囚われ人だと解ってイナイようだ。
「飲まず食わずで二つ夜を明かしても、ちっとも草臥れない。もう殺そう。」
サラッと恐ろしい事を言う浦頭も、飛国に滅ぼされた里の生き残り。兄と共に他の子と舟に放り込まれ、海の上を漂い流れて会牧へ。
「殺すのは良いが、片付けがなぁ。」
ポリポリ。
「ナッ、人で無し!」
「テメェに言われたかねぇよ。ヨシ決めた、バラす。」
使い慣れた斧を手に、長がニヤリと笑みを浮かべる。
「タタッ、助けっ。」
シュッと矢が頬を掠め、獄の後ろに生える木にトスッ。
獄の多くは洞穴に作るが、会牧の獄は森の中。大きな獣に潰されてもオカシクない、そんな感じ。他の獄は壊され、中にいた兵が生きたまま食い殺された。
「残り一つ。放っておけば獣が片付け、静かになる。」
狩頭は保国に滅ぼされた、津久間の西にあった里の生き残り。助けを求めて山の中を彷徨い、川に落ちて海まで流される。
海の上を漂い流れる舟に救われ、共に会牧に救われた。
「まっ、待ってくれ。」
長も浦頭も狩頭も、真中の七国に滅ぼされた里の生き残り。会牧に流れ着いたのだ、飛国か保国の兵だろう。
サッサと問いに答えれば、葬るツモリだったのに。
「オレたち、倭国から来ました。真中の七国は山に囲まれ、獣が多い。当たり前のように戦、戦で血腥いんです。」
「だろうな。」
浦頭、低い声で一言。
「骸を啄む烏が群がり、人が焼けた匂いが立ち籠める。アチコチで病が流れ、食べ物も少ない。」
「で?」
狩頭が見下す。
「お腹いっぱい食べるなんて、夢のまた夢なんです。」
「だから?」
長の目がスゥっと細くなった。
「・・・・・・だ、から。」
手っ取り早く津久間の里や村を襲い、食べ物や女を奪った。
生き残りが里を村に、村を国に変え守りを固める。それでも仕掛けて奪い捲ったが、難しくなってきたんだ。
中の西国も戦、戦。だから南国を目指したのに、ちっとも勝てない。それで中の東国へ。
「海の向こうから兵が押し寄せる。そうなれば、分かるだろう。オレたちは国を纏め、生き残りを」
「その前に先ず、真中の七国を一つに纏めろ。」
そう言って振り降ろされた斧が、兵の額をガンと割った。ビシャッと血が噴き、他の兵に降り注ぐ。死んではイナイ。骨が折れ、凹んだダケ。
そのうち死ぬだろう。
「ひ、ひっ、人殺し。」
「フッ、それがドウした。オレは長、皆を守り戦うのが務め。この二人もな。」
浦頭と狩頭がニヤリと笑った。
会牧は津久間の東、火の山島に守られている国。出で湯が多く、とても豊か。なのに会牧で生まれ育った人は少ない。
舟で他と繋がっているので飢える事は無いが、田や畑を作るのが難しいから。