10-23 そんな気はしてたよ
話し合うマデも無かった。
シシ、イコ、ムツ、ナヲの親は津久間へ戻る事を選ぶ。会牧に渡った三人と違い、同じトコロに戻るダケ。
どのように生きるのか、受け入れてもらえるのか、尋ねる気にならない。
悪取に出来るのはシシたち四妖を慈しみ、しっかり育てる事。闇堕ちさせず、穏やかに和やかに暮らす。それだけ。
「どうして。」
妖怪の血を引きながら、人として生きられるアサ、スサ、ヒサが羨ましい。
「どうして。」
心の声が聞こえるアサが、母と暮らせるスサ、ヒサが羨ましくて羨ましくて、叫び出しそうだ。
「どうして。」
ハヤは賢くて、誰よりも早く動ける。チカは羽みたいに軽くて力持ち。人と同じ時を生きる妖怪なのに、ハヤとチカだけ違う。
「どうして。」
アサもハヤもチカも、明里の皆を守れる力を生まれ持った。スサとヒサは何も無いのに母が居る、母と暮らせる。何が違うんだ! 何が違うんだよ。
「ねぇ明。私はね、明里を強くしようと思う。耶万から認められたのは、松田の縄張りだった地を治める事。人とドウコウする気は無い。ただ、あの子たちが心穏やかに暮らせる国にしたいんだ。」
『困ったり足りない物があれば、人の手で社が築かれるまで、千砂か加津を通して耶万を頼れ』と言われた。
というコトは組み込まれたワケではなく、受け入れられたと考えて良いハズ。
「私は何が有っても、どんな時も悪取様から離れません。人の国では生き難い、そんな人も受け入れましょう。悪さすれば、タプタプ袋にドボンです。」
「ハハッ、それは良い考えだ。」
悪い事をしなければ、誰かを傷つけなければ生きられない。そんな人も居る。穏やかに暮らす人の妨げになるなら、サッと消えてもらおう。
タプタプに溶ければ清められ、土を肥えさせ豊かになるんだ。その血肉、明里のために。いやいやイカン、落ち着け悪取。
「悪取様、明は思うのです。浦辺に来るのは良い人、松田に来るのは悪い人だと。」
そうカモしれない。海神の思し召しか、隠神の思し召しか。松田に仕掛けた罠に、多くの人が掛かっている。
浦辺に仕掛けたのに掛かるのは妖怪か合いの子。
「先ずは八人、戻さねば。」
「はい。」
へぇ、そうかい。そんな気はしてたよ。今は穏やかだが、そのうち嵐が来る。嵐が過ぎたら舟を出そう。
「良いよ、会牧に届け物が有るんだ。けど八人は多いな。耶万に舟を二、三ほど譲ってもらえば漁にも出られるし、頼んでみては。」
「そうですね。ありがとうございます。」
甲さまから伺った。真中の七国は戦し過ぎて、王がコロコロ変わっていると。
耶万の社の司がバンバン植えた闇が実を結び、ボンボン弾けても学ばない。どうなってんだ? オレでも解るぜ。
津久間は中の東国の端、それも南に在るから悪いのがドンドン入る。押し寄せる。南国へは山を越えなきゃ行けないから、守られているんだろう。
畏れ山、斑毛山の統べる地も穏やかだと聞く。
「悪く思わないでほしい。出来る限り手を貸すが、加津とイイを守るために生きている。」
「えぇ、解っています。」
「津久間から来た人、社を作ってくれそうかい?」
・・・・・・ハハッ。
「そうか。社があればイロイロ、早いんだけどな。」
空の社ならある。
松田の縄張りは広く、滅ぼされた里や村、国も多い。戻りそうなのは明里だけ。
社を通して聞いた話だが、明里は耶万からも認められたんだろう? ってコトはイケルと思うぜ。
松田に滅ぼされた国に手を入れて、暮らせるようにすれば良いさ。