10-20 みんなで守るから
生まれてから三日。合いの子は丸一日眠ることで一つ、年を取ると言われている。けれど、この子たちはドウみても六つ。いや、七つでも通るだろう。
「わぁぁい。」
「まてまてぇぇ。」
・・・・・・三つホドか。
「悪取様。東の海から舟がユックリ、真っ直ぐ近づいてきます。アサが見張ってます。」
「知らせてくれて、ありがとう。」
心の声が聞こえるアサが見張っている。というコトは悪いのが乗っているのか、何も聞こえないのか。
「行こうか、ハヤ。」
「はい。」
仲良く並んで浦へ急ぐ。
「こんにちは。加津の国守の子、イイです。布を持って来ました。」
魚籠を飛び出した大きな魚が、舟の底でビチビチ。その尾を掴み、ニッコリ。
「お魚もどうぞ。」
イイは機織りも好きだが、釣りが上手い。驚くほど賢くシッカリしており、目に見えないモノを探り知る力がある。
「干し方を教えよう。開いて干すと、長く食べられる。」
加津の国守ミカに撫でられ、嬉しそうなイイ。仲良し親子を見て『羨ましいナ』と思うアサ。
「ありがとうございます。」
スッと顔を戻し、アサが微笑む。
母は津久間の地、会牧で暮らしている。会う事は無いだろう。
シッカリ考えてサヨナラを伝えられたのに、心の底からダイスキを伝えるイイと、優しく見つめるミカの姿にグッときた。
「アサ。」
悪取に肩を抱かれ、涙がポロリ。心の奥底に沈めたハズの思いがドッと押し寄せる。止まらない。
「明里の子は私の子。」
抱きしめられ、静かに泣いた。
泣いて泣いてスッキリしたアサに、悪取が優しく微笑む。父の顔なんか知らない。けれど己は、人として生まれた明里の子。それで良いじゃないか。
松田から移して建てた家の中に、ミカがパパッと竪機を作り上げた。手織機の扱いを教えるイイをニコニコ顔で見守っている。
「楽しそうですね。」
ポコンと出た腹を摩りながら、カハが声をかけた。
「えぇ。」
同じように腹を摩りながら、ヒシが笑う。
「この子も、イイさんのように育つかしら。」
イイは合いの子。国守であるミカに引き取られ、慈しみ育てられている。
母ハツとミカの間に、血の繋がりは無い。だからイイには四人の親が居る。ハツとイノ、ミミとミカ。ハツの子だから父はイノ、ミカの子だから母はミミ。
人と妖怪の合いの子だけど、妖怪の子じゃなくて加津の子だ! そう思って生きると決めた。
「真っ直ぐ育ってくれれば、それで良いわ。」
イイは加津の子。ミカが選び、ハツが糸を通した貝の首飾りをしている。
妖怪の血が強いので、人よりずっと長生きするハズ。だからイロイロ身に付けるのだ。いつかミカと死に別れても、キチンと生きてゆけるように。
「育つよ。みんなで守るから、良い子を産んでね。」
「ありがとう、アサ。」
「ありがとう。」
カハとヒシに頭を撫でられ、エヘヘと照れた。
「コラァ! 畑に入るな。」
頭の回転が速く、すばしっこいハヤが暴れん坊を次から次に捕まえ、身軽で力持ちなチカにボンボン投げる。
「わぁ、待て待て。」
アサが駆け寄り、逃げた暴れん坊を捕まえた。
「夕餉、抜くよ。」
アサに言われ、四妖ともピシッ。