10-19 足りるかな
モリモリ食べてタップリ眠った事で、明るくなった子らがクルクルと良く働く。
旧松田領は大祓により清められ、悪しいのは消えた。松田を滅ぼした『耶万の夢』は薄くなり、明里や浦辺に届かない。
耕した畑に豆、芋、蕎麦を植え、水を撒く。
豆は強い。芋は丸いのダケでなく、葉も茎も食べられる。蕎麦は実をつけるのが早いし、荒地でも良く育つ。
御食神では無いが祈ろう。
「大きく育って、実りますように。」
畑に手を合わせ、目を閉じる悪取。その隣で明がキチンとお座りし、目を閉じる。ハヤが駆け寄り、同じように手を合わせた。
となるとアサやチカなど、明里の良い子たちも。
「おや皆、楽しそうだね。」
真似られているとは思わない悪取、ニッコリ。
『犲の里』でも子らが目を閉じ、誰が長く立っていられるか競っていた。あれは何の遊びだったのか。ただただ、楽しかったのは覚えている。
松田に残っていた家は全て、浦辺に移した。明里のは一から建てる。畑から近ければ手入れし易いし、浦辺は大きな国だったので広い。
端に建てた産屋で、女の戦が始まった。悪取に出来る事は一つ。慌てず落ち着いて、子を取り上げる事。
穴の中に弱った熊を放り込み、明に見張りを頼んだ。駆け付けたモトに教えを乞いながら、シッカリ向き合う。
新たな子はスルッと出るのか、息張ったらヌッと頭が見えた。鼻が出るまで待ち、頭を掴む。・・・・・・出た! 今だ。
「引っ張れ。」
娘に覆い被さり、動かないよう押さえるモト。
「ハイッ。」
迷わずガッと掴んで引っこ抜き、そのまま大穴へ走る。大きく口を開け暴れる嬰児に、『熊肉が有るぞ、少し待て』と言って聞かせた。
思ったよりペコンペコンな頭をシッカリ掴んで、落とさないように気を付けながら放り込む。
「わぁぁ。」
明、ポカン。
熊の腹あたりに打ち当たったのに、蜘蛛のように素早くハイハイして、首筋にガブリと食らい付いた。
ゴキュゴキュと血を飲み干し、クルクル丸めてムシャムシャ。お腹をポンポンしてからゴロンと横たわり、グゥ。
「はぁ、間に合った。」
悪取がペタンと座り込む。
「初めてにしては良くやった。が、次だ。」
・・・・・・えっ。
加津から駆け付けたミカが闇を伸ばし、セッセと大穴を掘る。それからスッと森の奥へ。気を失ってピクピクしている大熊をぶら下げて戻ると、ポイッと穴に放り込んだ。
「もう一踏ん張り。」
ポンと背を叩かれ、我に返る。
「ハイ。明、頼めるね。」
「はい、悪取様。シッカリ見張ってます。」
その日、産まれたのは四妖。
ハヤやチカと同じ。妖怪として生まれ、人と同じ時を生きる子たち。生まれ順に男、女、女、男。熊が出そうなトコロに罠を張り、生け捕りにする。
グァオグァオ煩いので弱らせ、プラァリ。
「育つのが早過ぎる。」
人と『新たな合いの子』の間に生まれた子なら、アサたち三人と同じように育つハズ。違うとなると、この子たちは・・・・・・せっかち?
「ホレ、お上がり。」
大穴に投げ込むと、腹を空かして起きた子が目を輝かせ、熊の首筋に食らい付きゴキュゴキュ。クルクル丸めてムシャムシャ。
幸せそうな顔をして腹を摩り、大の字でスヤァ。
「足りるかな。」
四妖とも良く食べる。チカたちは眠ったら次の日まで起きなかった。なのに、どうなるコトやら。