10-17 己に出来る事は何だ
そうだ、みんな明里の子。
妖怪の血が流れてるケド、人と同じ時を生きるんだもん。他の妖怪とは違う。人を襲わないし食べない、食べたいとも思わない。
これから生まれてくる妹や弟たちを、兄や姉として導くんだ。
死んで妖怪になって、人から望まれて国守になった妖怪は少ない。珍しい。祝人だったモトさんは、とても穏やか。ミカさんは逞しい。
明里を守るのに要る事、他とは違うような気がする。だから違う国守にイロイロ聞いて、学ばなきゃイケナイんだ。
「はい、モトさん。いろんな事を教えてください。」
アサが頭を下げる。
「私に教えられる事なら、何でも教えよう。」
ハヤとチカが見合い、頷く。
「狩りとか釣りの術、知りたいです。」
里は山奥にあるけど、浦辺は海に近い。だから知りたいんだ。
「悪いね、チカ。私には教えられない。ミカに教わっておくれ。」
「機織り、小さい子の扱いは?」
「それなら教えられるよ。ハヤは周りが良く見えるから、覚えるのが早そうだ。」
「さぁ着いた。」
ミカが舟から飛び降り、舳をグイッと引く。ザザザと砂浜に上げられ、安定した。幼子たちがピョンと降り、グインと背伸び。
「少し離れて。」
近海の浦頭に言われ、トタトタと浦から離れる。
「コッチだよ。」
迎えに来たアサ、ハヤ、チカが手を振る。子らは手を繋ぎ、トコトコ向かった。
「ユックリで良いからね。」
近海の水手に言われ、青い顔のまま微笑む。
長く舟に乗っていたのだ。砂浜に降り立っても少し、フラフラしてしまう。スッと男が降り、安全を確かめてから手を伸ばす。その手を取り、娘が降りた。
「気持ちが悪いなら、運ぼうか。」
クベに問われ、舟上の三人が力なく笑う。さすが親子、ソックリ。親はミカ、子はクベの闇に支えられ、何とか降り立った。
「皆さん、ありがとうございました。」
悪取が頭を下げると、明里へ移住してきた二十五人も頭を下げた。
「良いってコトよ。」
近海の浦頭が代表して一言。
「困った時はお互い様さ。」
水手が微笑む。
「じゃぁオレ、耶万に舟を返しに行くよ。クベ、どうする。加津まで乗ってくか?」
「はい、お願いします。」
ミカもクベも妖怪の国守。これからも永く、付き合ってゆきたい。この二妖は他とは違う。力が強いし、ビックリするほど早く動ける。
アサたちの母を浦辺から会牧へ送り届け、津久間の端へ。そこから多くの人を乗せ、浦辺へ。
浜木綿の川が流れ込む辺りは潮の流れが早く、近づくのは難しい。なのにミカはスイスイと漕ぎ、良那の国守オトを降ろした。
「ミカさん。落ち着いたら明里の皆に、狩りや舟の扱いを教えてくれませんか。」
「良いよ、また会おう。」
舟が見えなくなるまで見送ると、明を撫でて微笑んだ。ウットリしながら明は思う。『悪取様を御支えするには、側に居るダケではイケナイんだ』と。
離れている間、タプタプ袋に落ちるのが増えた。明里から張り巡らされた糸は、悪しいモノを融かし続ける。逃がさない。
己に出来る事は何だ、犲の隠にも出来る事は何だ。何が出来る。
「明、ありがとう。これからも私を支えておくれ。」
「はい。力を尽くします。」