10-16 明里の子
話し合いの末、明里に迎える事になったのは合わせて二十五人。女十三人、男十二人。
一組、子連れが居た。妻を一人、行かせるなんて考えられない。幼子を一人、残して行くなんて有り得ない。だから三人で、と。
見送りに来たのは皆、幼子の親。じっくり話し合い、津久間を離れる事になった。子が十二になるまでは、私が親代わり。
「さぁ、乗ってくれ。」
加津のミカが手を振る。
「みんな乗れるから、ゆっくり。」
大石のクベが微笑む。
「ん、泳げない? 暴れなけりゃ落ちないよ。」
「波が穏やかだから、そんなに揺れないさ。」
近海から、浦頭と水手も来てくれた。
幾ら大きくても、耶万から借りた舟に乗り切らない。だから帰りの舟に大人を数人乗せ、浦辺に運んでもらった。
先に向かったのは、そろそろ生まれそうな人たち。
社を通って加津から耶万へ行き、話を通した。
耶万に組み込まれた国で、港を持つのは加津と光江だけ。光江には子しか居ないから、頼りたくても頼れない。そこで殺社に使いを出し、御願いする。
浦頭が手伝ってくれるとは思わなかった。
「悪取様の言い付けを、しっかり守るんですよ。」
「どんなに離れていても、私たちは親だ。いつでも帰っておいで。」
「共に生きたいと思える人と、こんなに早く出会えたんだ。きっと幸せに暮らせる。」
「支え合い慈しんでいれば、どんな事だって乗り越えられるわ。」
親たちが我が子を抱きしめ、思いを伝える。柔らかい頬に触れ、微笑みながら。生きていれば会える。分かっていても、涙が溢れてしまう。
幼い男女が手を繋ぎ、ニッコリ。仲良くユックリ歩を進め、親から離れてゆく。舟に乗り込むと振り返り、大きく手を振った。
先の事なんて誰にも分からない。けれど、親たちは心から願う。我が子の幸せを。手を振り返しながら、祈るように。
明里は松田と浦辺の真ん中から、奥に入った場所にある。やや浦辺寄り。浦から入れれば良いのだが、それは難しい。
断崖絶壁では無いが、高い崖を攀じ登る事になる。それから獣道を進み、幾山か越えて。となると遠回りでも、浦辺から入った方が楽に辿り着ける。
明里は隠れ里、それも松田に荒らされ滅茶苦茶。だが浦辺は比較的、整っている。麓の辺りに残された田畑だって、少し手を入れれば使えるだろう。
津久間の地から、どのくらい人が来るのか分からない。けれど近海の浦頭が向かったのだ。十人、二十人では無いだろう。
千砂と加津から助っ人が集まり、セッセと田畑に手を入れた。モトは荒地に闇を突き刺し、伸縮させて耕す。加津の人はミカで慣れているが、他の人はビックリ仰天。
モトが闇を帯のように伸ばせる事は知っていたが、それを開墾に使うとは思わなかったから。
「うん、こんなモンかな。」
野良仕事の邪魔になりそうな石や岩、大木を取り除きスッキリ。とても良い畑になるだろう。
「モトさん。私にもバシバシ、出来ますか。」
妖怪の血を引く子、ハヤが目を輝かせる。
「私もバシバシ、出来るかな。」
同じく、チカもランランと目を輝かせる。
「さぁ、どうだろう。ハヤは走るのが早いし、チカは力持ちだ。人を支えて生きるのに、とても良い力だと思うよ。」
チカとハヤが嬉しそうに跳ねた。
「アサの力は明里を、悪い人から守るのに良い。胸を張りなさい。」
少し離れて俯いていたアサが顔をあげ、ニッコリ微笑んだ。モトの元へ駆け寄り、モジモジ。
「アサ、ハヤ、チカ。妖怪の血を引いているが、明里の子だ。力を合わせて、みんなの幸せを守るんだよ。」