10-14 本気を出した結果
新たな妖怪の子を宿した女たちから、悪しいモノを取り除いた悪取。
子を生す事が出来ないハズの体に入ったソレは臍から強くした糸を差し込み、融かして外に出せると判った。
傷ついた女が集められた家を回り、奪って奪って奪い捲る。
合いの子に罪は無い。けれど生かしておけない、殺すしか無い。増えるんだ、アッと言う間に育って増えるから。私は人を守るため、新たな力を授かったのだ。
「緑さま。もう他に、一人も残って居ませんか。」
津久間神の使わしめ、緑は蛇の隠。使わしめ蛇の会を通して、多くの蛇に力添えを願う。つまり、にょろにょろパラダイス!
「ウム。悪しいの全て、消え去った。胎に残ったのは、どうにも・・・・・・。」
「では私、人の味を覚えたのを纏めて融かします。」
そう言い残し、悪取が呼び寄せた犲に跨った。『獣の力』を使ったのだ。
「悪取、急ぐなら社を通りなさい。」
真中の七国との境まで、悪取を乗せて走る気マンマンだった犲が、気の毒なくらいシュンとした。
「共に来てくれるかい?」
「ヲン。」 ヨロコンデ。
悪取と一頭の犲が、社を通って最前線へ。海沿いの入り組んだ地に糸を張り、タプタプ袋を下げる。『妖怪の国守には敵わない』と思い、逃げたのを狩るために。
「オオォォン。」 ソッチイッタゾ。
「来たか。」
牙の里に伝わる『獣の力』は強い。社の司、つまり人にも扱える力だ。隠である悪取が使えば、一山どころか津久間の統べる地、全てを見渡せる。
獣の目と耳が、悪取と繋がっているのだから。
ジュッ。ジュッ。ジュジュジュッ。ジュジュジュジュジュ。ジュゥゥ。ジュッ。ジュッ。ジュジュジュッ。ジュジュジュジュジュ。ジュゥゥ。
「ギャァァ。」 ナンダコリャァ。
「ギョエェ。」 ヒキカエセェ。
「ギュゥゥゥ。」 オスナァァァ。
ジュッ。ジュッ。ジュジュジュッ。ジュジュジュジュジュ。ジュゥゥ。ジュッ。ジュッ。ジュジュジュッ。ジュジュジュジュジュ。ジュゥゥ。ジュッ。ジュッ。ジュジュジュッ。ジュジュジュジュジュ。ジュゥゥ。
字だけ読めば振子のように、左右に揺れたくなりますネ。けれど、これほどワクワクしない音はアリマセン。
人の味を覚えた新たな合いの子が発する、断末魔の叫び。古い油を熱したような、嫌ぁな匂い。
てん突きに押し込まれた心太が、麺状に突き出る。といえば、御分り頂けますか。
エッ、美味しそう? うぅん。触れれば切れるような蜘蛛の巣状のソレが、ワンサと来たバケモノを切るんですよ。
「キュゥン。」 ツライヨォ。
ワンコは嗅覚と聴覚が発達しているので、いろんな意味で辛い。猪や鹿、猿の肉なら涎を垂らすでしょう。けれど目の前に有るのは全て、腐りかけの脂ぎった肉。
食べちゃダメ、お腹を壊すよ。って、要らないか。
「ありがとう。皆、森へ御帰り。」
「オン。」 ハイ。
犲たち、逃げるようにタッタ。
越道山や大貝山の統べる地から、中を守っていた妖怪の国守が来た。長期間の戦闘で疲労困憊した国守と交代し、力を揮う。
悪取は糸を張り巡らせ、逃げ惑う悪しいのを捕らえる。人を食らった合いの子は全て、タプタプ袋へドボン。逃げた人食いは吊り下げたまま引き寄せ、お片付け。
力を合わせて戦った結果、敵の殲滅に成功。終戦を迎える。