10-13 他とは違う何か
真中の七国との境で、悍ましい事が起きている。
津久間、畏れ山、斑毛山の統べる地から妖怪の国守を集めても、守りながら戦える国守は少ないので足りない。だから越道山と大貝山の統べる地にも声を掛け為さる。
そうして集めらた国守の一妖が、加津のミカ。
舟に残って娘を守るのは、大石のクベと良那のオト。妖怪の国守が二妖も居るのだ。『舟を襲おう』とか『娘を奪おう』と考えるのは居ないハズ。それでもシッカリ目を光らせ、声を掛けた。
「皆、シッカリと生きるんだぞ。」
「はい。」
産んだ子に会う事は無い。あの子たちは明里で生き、明里で死ぬ。でも、そうね。産んだんだもの。母としてシッカリ生きなきゃ、恥ずかしいわね。
「私は会牧の社の司、ツガ。会牧社に迎えが来ています。皆さんが暮らす村は、三つとも付き合いが有りますので、困った事があれば社を通してください。会いたければ会えますよ。」
・・・・・・あの人、アサと同じ目をしている。聞こえるの? 心の声が。
聞こえるのね、目を逸らしたわ。アサも育てば、社の司になるのかしら。ソレは無いわね、妖怪の血が流れているもの。人の長には、望んでもナレナイ・・・・・・。
人として生まれたのに、あの子には選べない。
「子らと会う事は無いだろう。けど、あの子たちは明里で生きる。だから心を強く持て。」
「はい。いろいろ、ありがとうございました。」
ミカに言われ、三人の娘が微笑んだ。ミカ、クベ、オトの三妖は思う。きっと強く生きるだろうと。
「ミカさん。あの三人、幸せに暮らせると良いですね。」
「そうだな。クベ、覚えてるか。死んだ腰麻の国守。」
「アキだっけ。四姫の。」
「そう。この先にな、似たような闇を感じるんだ。」
腰麻の四姫、アキ。己を切り取って、人の娘に植え付けたんだったな。生まれて直ぐ会岐、大石、千砂、加津の国守に腰麻の祝、五妖がかりで殺したと聞いた。
ん、何か? この先にトンデモナイのが居るのか。
「オトさんの力も、遠くから戦うのに向いているとか。」
「えぇ。切り取った闇を飛ばすので、長く戦うのには向きません。ミカさんは、どれだけ闇を伸ばせるんですか?」
「今は加津から、良那の辺りまで。もう少し伸びそうです。」
す、凄い。この二妖、他とは違う何かを感じる。
「アッ、見えた。ミカさん、ほら。」
「ん?」
「手を振ってくれてます。だから、振り返して。」
「こうか?」
エッ! ココから見えるの。オレ、山しか見えないよ。
「クベは山育ちで、遠くまで良く見えるんです。だからオトさんも、ほら。」
ソウデスカ、スゴイデスネ。ハハッ、コウカナ。
ミカもクベも耶万の大祓で清められ、角と牙が消えた。人の世に留まり、望まれて国守になった新たな妖怪。そりゃ違うよな、他と同じワケが無い。
良那まで闇を伸ばせるんだ、社を通して加津と結ぼう。
戻ったらウカに話し、社の司として動いてもらえば良い。どうなるか分からないが、加津と結べば耶万の動きが。
いや、そうでは無い。加津も千砂も耶万に敗れたが、とても強くて豊かな国だ。
良那も豊かだし強いが、近くに助け合える里も村も、国も無い。海から離れていても、いつ何が起こるか分からないんだ。
真中の七国は戦ばかりでボロボロなのに、なぜか力を失わない。あれだけの兵を送り続ける、何かが有るんだろう。
備えなければ良那を、皆を守れない。
「オトさん。着きましたよ、オトさん。」
早っ! もう津久間の端に着いたのか?