10-9 人として生まれたのに
初めに生まれた合いの子は男で、人として生まれた。とはいえ、三日の間は他の合いの子と同じ。
大きな獣に食らい付きゴキュゴキュ、クルクル丸めてゴックン。大穴の端へトコトコ、お腹をポンポン。スヤァを三度、繰り返す。
次に生まれた合いの子は女、その次に生まれた合いの子は男。どちらも妖怪として生まれた。
人と『新たな合いの子』から生まれたからか、これまでの合いの子とは違う。姿は三つくらいだが・・・・・・強い。
キャアギャァ騒ぎながら走り回り、大木に登って飛び降りる。食べ物を得ようとするのは良いが、狩れないような大物に立ち向かうのは止めてほしい。
「比べるのは良くない、のですが。」
千砂の国守でヨヨの父、モト。
「子は、こうだよな。」
加津の国守でイイの父、ミカ。
会岐のミイ、千砂のヨヨ、加津のイイ、大石のムゥも育てやすい子だ。
騒ぐ事なく落ち着いている。言の葉もスラスラ出たし、言い付けをキチンと守り、アレコレ見て学ぶ。
思えは初めからシッカリしていた。それぞれ違う闇の力を生まれ持ち、使い熟そうと努めている。きっと良い国守になるだろう。
「そろそろ会わせたい。けれど、あの怯えよう。」
「そうだな。」
母を亡くしたのはイイだけじゃない。
早い遅いはあるが、他の娘たちも助からなかった。あんなに大きく膨れたんだ。体の中が潰れたり、壊れてもオカシクない。
水を飲むのも、息をするのも辛そうだった。
津久間から来た娘たちは違う、みんな助かる。なのに酷く怯えているのだ。生まれた子は、新たな合いの子は妖怪の血が薄いんだろう。
ミイたち四妖とは違う。
「なぁモト。あの子たち育つの、遅くないか。」
「そう言われれば、確かに。」
男の子は言の葉が出るのが遅い。それでもヨヨは見たモノ、聞いたコトを嬉しそうに話してくれた。あの子たちは生まれて五つから八つ、朝を迎えている。
新たな合いの子は、妖怪だが人に近い。弱すぎて無いようなモノだが、何らかの力が有るようだ。
「初めに生まれた子、もしかすると。」
「聞こえてるな。」
「モトさん、ミカさん。あの子に、人として生まれたのに何が、何が聞こえるんですか。」
合いの子なのは変えられない。けれど悪しいのを取って、取り切れなかったのか。
力が弱かった? 足りなかったのか。それで、それで人として生まれたのに、悪しいのが残ってしまったのか。
「心の声だよ。」
「ミカさん。そ、れは。」
あの子からは祝の力も、闇の力も感じない。だから妖怪では無く、人として生まれたんだ。なのに心の声が聞こえると。どうしよう、他の子にも。
会わせたいのに会わせられない。ハッ! 『なぜ産んだんだ』とか、娘たちに伝えたのか。心の声を届けたのか。もしそうなら、どうすれば良い。どうしよう。
「悪取さん、落ち着いて聞いてくれ。妖怪の血が薄くなると、合いの子でも人として生まれる。そう珍しい話じゃナイらしい。でな、その子は闇に染まり易い。」
闇に、染まる?
「社を通して聞いた話です。どんなに薄くなっても、妖怪の血を引く子は闇に弱い。慈しみ育てても、酷く歪んで育つ事が有ると。」
「モトさん、それは。その、遠く離れた地での話では。」
「良那で一人、見つかりました。」
・・・・・・。
「切り取った闇を調べたら、『矢箆木沼で切り取った闇と同じだった』って話だ。」
「ミカさん! 矢箆木って、鎮の西国ですよね。」
良那は中の東国。西国とは遠く、遠く離れている。