5-15 速報
「聞いたか、稲田の子の話。」
「ああ、聞いた。」
「何か、大きな力を持っているって。」
「男の子。ジロの孫らしいぞ。」
矢光の村の長、ヒロは決めた。引き取ろうと。あのジロの孫だ。大きなことを、成し遂げるだろう。
「それに、聞いたか?」
「何を。」
「女の子と、こう。ギュッと手を繋いだまま、離れようとしなかったって。」
「ヒエェェェ。すっげぇぇ。」
連れがいたか。まぁ、良い。ジロの孫が選んだ娘だ。良い子だろう。
「聞いたか、稲田の子の話。」
「ああ。仲が、良いらしいな。」
「そうそう。麓からずっと、手を繋いでたって。」
「それに、さ。」
「何だよ。」
「一度は子の家に行ったのに、社へ戻されたって。」
「神の御告げで。」
幸田の村の長、キタは決めた。稲田の子らを、引き取ろうと。強い力なら、田んぼの助けになるはずだ。
乱雲山の頂きは、雲が切れている。とはいえ、欲しい。
どちらに力があるのか、わからない。一人も二人も、変わらない。二人とも、幸田の村へ。
「聞いたか、稲田の子の話。」
「聞いた。一度は子の家に行ったのに、戻されたんだろう。」
「神の御告げで。」
「すっげぇ。」
切雲の村の長、リクは決めた。稲田の子を、引き取ろうと。強い力があれば、畑の助けになる。
いくら雲が切れているとはいえ、乱雲山の雲は、厚い。
「祝、おはようございます。早々ですが、お話が。」
「祝、おはようございます。急ぎ、話したいことが。」
「祝、おはようございます。お願いしたいことが。」
矢光、幸田、切雲。三つの村の長、朝っぱらから集まった。きっと、同じ話をする気だろう。
祝は思う。朝餉くらい、ゆっくり食べさせて、と。
「おはよう。長が揃うなんて、何かありましたか。」
「稲田の子、矢光の村で。」
「何を言う。幸田の村で。」
「いやいや、切雲の村で。」
ゴロゴロは思った。なんと慌ただしい。朝餉くらい、ゆっくり食べさせてやれよ。
見ろ。ツウもコウも、驚いでいるじゃないか。ツルに至っては、頭を抱えているぞ。




