10-5 明るい見通し
狭間の守神、和山社にて神議り。
御考えを述べ、論じ合われるのは『人の世に満ち満ちる、濃く深い闇』について。
やまと内で激しい争いを繰り広げている二つの地、鎮の西国と真中の七国。中の西国を挟んでいるが、啀み合いが絶えない。
富と力を求め、奪い奪われ奪い合う。愚かだ。
海の向こうとの繋がりを持つ鎮の西国。荷をスルスル運べる内海を取り仕切る中の西国。中の西国を通してイロイロ仕入れる真中の七国。
互いに譲り合い、上手く整えれば良いものを、張り合って溝を広げている。
「人は、人とはぁ!」
湯溜神、ドッカァン。
鎮の西国の真中にある、焼山が噴き出しました。火口から柱のような煙があがり皆、真っ青。
「困ったモノです。」
矢箆木神、フゥゥ。
鎮の西国、儺国の果てにある矢箆木沼で泡がボコッ。住まう隠や妖怪がバタバタ倒れ、ピクピク。
「二柱とも、御鎮まりください。」
砂水神、サラァァ。
中の西国にある水取砂溜で、砂が流れました。夜行性の使わしめ、籠が慌てて顔を出す。
鎮の西国も中の西国も戦続き。乱れに乱れ、傷ついた骸がゴロンゴロン。
大祓で清らになったのに。耶万のアコに闇の種を植え付けられ、光に変わったのに闇ドバァ。
「人の戦好きにも困ったモノです。」
水引の谷より、水引神。
「水筋より伝わるのですよ。」
集山より、集水神。
「嘆きに沈む、木の思いもね。」
迷いの森より、誘神。
水引の谷も集山も迷いの森も、中の東国にあります。鎮の西国も中の西国も、中の東国からは遠く離れている。にも拘らず伝わるとは!
「穴があったら入りたい。」
甲山神、ズゥゥン。
甲山山地の主峰、六亀山で、花崗岩が浸食を受けました。
「水底で叫びたい。」
鳰海神、グスン。
やまと最大の淡水湖、鳰の海で魚の群れが跳ねました。
甲山も鳰の海も、真中の七国にあります。どちらも大きいのに、二柱とも小さくなって御出でです。
「そう嘆くで無い。良い事もあった。」
はじまりの隠神で在らせられる大蛇神、ニコリ。
「明里の隠、悪取が悪しいモノを消して無くした。」
仲良くパチクリなさる神神。
「大貝神の代替わりに力を尽くした御犬社の祝で、親から付けられた名は明里。新しく付けた名を悪取。」
数多の神神、悪取を『他とは違う隠なのだ』と御考え遊ばす。
隠に名を付けるのは、その隠の後見になるというコト。だから求められてもポンポン名付けず、傷つけぬように断るのだ。
「茅野から良村に来たタエが、先読の力で確かめた。鎮の西国、中の西国、真中の七国から押し寄せる兵が減るのを。全ては悪しいモノを奪い取る力を持ち、赤眼の白い犲を従える隠、悪取により為される。」
ザワッ。
「タエの先読の力は強く、外れる事は無い。マルの力で守られ、清められるからな。」
サラッと愛し子自慢、入りました。
「望まれぬ子、全てでは無いが人に。妖怪として生まれても、人と同じ時を生きられる。」
・・・・・・えぇぇ!