10-4 そんな事が出来るのか?
浦辺に流れ着いた娘は皆、身籠っていた。そのうち二人は陸に上がると産気づき、合いの子を産む。
死産だった。
腹を食い破って出たワケじゃない。だが二人とも、眠るように旅立つ。
人を食らった合いの子は迷う事なく、タプタプ袋にポイ。清らな何かで満たされているが水では無く、悪取の糸を融かしたモノ。平たく言うと溶解液。
袋の中でユックリ、ゆっくり融かされる。
「ごめんください。」
千砂神の使わしめ蜜。明里には社が無いので、千砂から飛んできた。
蜂の隠なので。
「はい。」
里の外れに急いで産屋を建てた。イロイロ手を掛ける時がナイので、松田に残された家を移築。ワルが使っていたモノだが、そんなに痛んでイナイ。
木陰で休ませていた娘たちを一人づつ運ぶ。合わせて三人。
『まだまだ流れ着くだろう』なんて事を考えていたら、散らばっていた石の一つに蜂が。
「私は千砂神の使わしめ、蜜。人と妖怪の合いの子について、お伝えしようと参りました。」
千砂の国守に引き取られた合いの子、ヨヨには先見の力が有る。悪取が目覚める前、胎に子を宿した娘を助ける姿を見た。
悪取に救われる胎の子が小さければ、人の子として生まれる事。大きければ妖怪として生まれるが、人と同じ時を生きる事。人を食らった合いの子が、浦辺にドンドン送り込まれる事を伝えてほしい。そう頼まれたのだ。
「人を食らった合いの子から守るため、『水際にも糸を張ると良い』そうです。」
そんな事が出来るのか?
「地に巣を作る蜘蛛も居りますので、その気になれば張れるかと。」
悪取は蜘蛛ではアリマセン。元、祝です。
「そうですね。もう人ではアリマセンが『ヤル気を起こせば、人に出来ない事は無い』と昔、父から教わりました。」
キリッ。
人と妖怪の子を孕んだ娘の扱いや、生まれた合いの子の扱いなど、いろいろ蜜から教わった。
千砂の人が明里に近づく事は無いが、困った事があれば妖怪の国守が力を貸す。そう言われ、ホッとする。
一妖で難しそうなら、加津の国守に話すとも。
千砂も加津も、大磯川の向こうにある国。耶万に滅ぼされたが立て直し、新しい耶万に組み込まれる。
耶万社には闇の力を持つ者が多く、社の司が国を見張っているらしい。
「あの大王、死んだのか。」
滅びの力が効いて良かった。アレはイケナイ。
「にしても、妖怪の国守とは。」
耶万の大祓で清められ、望まれて国守になるなんて。
千砂と加津の国守は、生まれた合いの子を引き取って育てている。私は隠だが、人に触れられた。
明里に迎えた娘たちは産む。けれど、他の妖怪とは違う。人と同じ時を生きる妖怪だ。
「悪取様。あの娘たち、津久間の生まれです。海の近くです。私を撫でながら教えてくれました。」
モフン。
「そうか、ありがとう。」
明には癒しの力が有るのか!
真中の七国から押し寄せた、目を血走らせた男たち。
皆が皆、襲われたワケでは無い。田や畑にいた者の多くは逃げられた、助かった。けれど山に入っていた者は逃げきれず・・・・・・。
津久間には居ないのか、居ても守れなかったのか。
恐ろしい思いをした女が舟に放り込まれ、流れ着いた。生きて陸に上がったのは五人。二人は、もう戻らない。