10-3 ナデナデ最高!
「中は広いね。」
「ハイ。」
お腹いっぱい食べて、幸せな気持ちでウトウト。そんな時、目の前の柞が輝いた。
『悪取様、スゴイ』と野に生きる犬のように、ブンブン尾を振る明。犲なので、尾はクルンとしません。垂れ下がってマス。
何はともあれ、お家が出来ました。悪取は強い力を持つ隠、神ではアリマセン。けれど清らなのは元、祝だからでしょうか。
「さて。」
明里から旧松田領に、蜘蛛の巣状の罠を張り巡らせた。悪しい生き物を漏れなく搦め捕り、手繰り寄せるスグレモノ。長いので『悪取の力』と呼ぶ事にする。
『獣の力』も『滅びの力』も闇堕ちしたのに清められ、人の世に戻された私が揮って良いのだろうか。
いや何れ揮う時が来るだろう。けれど今は、この力を。
「わぁぁ。」
トロンとした糸がアチコチに伸び、手を握り合うように繋がった。どう見ても巨大な蜘蛛の巣。糸は透けているので影を作る事は無いが、迫力満点。
鷲だろうか、大きな鳥が急降下。狙いは明。
若い逸れオオカミが一匹、開けた地で空を見上げている。『狩ってください』と言っているようなモノ。
「ピィウゥ。」 ナニコレイヤァ。
イイ感じの四つ足が一匹、開けた地で呆けていた。
滅んだ人里に迷い込んだワンちゃん、アタシの命を繋いでね。『いっただっきまぁす』と下りたのに、何なのコレ。
「おや、良いのが掛かった。」
狩るつもりが、狩られる事になったイヌワシさん。ジタバタ暴れるも、キュッと絞められシュパッ。そのまま逆さ吊り。
『殺してやる』とか何とか、命を奪うために近づけば網に掛かる。白いから、兎か何かと間違えたのだろう。
ビックリした明、悪取に撫でられウットリ。
加津神、千砂神、耶万神による大祓で、旧松田領が清らになった。なのに、もう集まった。
遠く離れた松田は後回し。網を張ったから、どうにでもなる。今は浦辺だ。
水際に流れ着いた舟には、人と妖怪の合いの子。妖怪の子を孕んだ娘も乗っている。里だか村だか国から追い出され、放り込まれたのだろう。
「御犬様、隠犬さま。」
悪取が目を閉じ、息を吐きながら見上げる。クワッと見開き、南東へ。
「悪取様ぁ。」
明がタッタと後を追う。早い早い、アッと言う間に浦辺に着いた。腰を落としてキキィッ、勢い余ってドン。
急に止まれないのは、猪ダケじゃナイ。
「キャイン。」 イタッ。
「ごめんよ。」
鼻先を激しく打ち当て、涙目になる明。優しく撫でられ、痛みが吹っ飛んだ。
「ヴゥゥ。」 ウマソウ。
悪取の網に搦め捕られた合いの子は直ぐ、タプタプ袋にポチャン。シュルシュルと吸い取られ、消えて無くなる。
ギュウギュウ詰めても破れない。そんな所に入れられたのに、食らう事しか考えられないとは。
どこから来たのか、親はどうなったのか。クギヅケになっている合いの子に聞いても、何一つ答えられないだろう。
目が血走っている。
「娘さん、立てますか。」
今にも弾けそうなホド、大きく膨れている。娘たちに声を掛けながら、ソッと腹に手を当てた。そのまま胎の子の力を奪い、陸に上げる。
一人、また一人。