10-1 悪取
新章スタート!
生まれ育った隠れ里、犲の里が松田に攻められた。里の皆を守るため、私に出来る事は何だ!
祝の力を揮い、松田王を討つ。そのためなら死んだって構わない。そう、死んだ。妖怪となり戻った私は闇堕ちし・・・・・・。
明里は大蛇神より、新たな名を授かった。隠だ、何れ隠の世へ。けれど墓を、里の皆を守りたい。
『人の世に留まる間、この地で隠を助け導く事、国を建てる事、御許しください』と願い出た悪取は隠の犲、明と共に力を尽くす。
他では生きられない、生き難い。そんな者を受け入れ、皆が幸せに暮らせる国にするために。
明里編、はじまります。
私は里を、いや違う。里人の尊く厳かで、冒し難い全てを守るため、望んで囮となり死んだ。
許せなかった。
大王を名乗る、あの男ダケは生かしておけない。松田の縄張りは広がり続け、多くの血と涙が流され続ける。
どれだけ奪えば気が済むのか、どれだけ殺せば気が済むのか。アレは人では無い。人の皮を被ったバケモノだ。
私が授かった『滅びの力』は、触れたものを滅ぼす。社の司が授かる『獣の力』は犲を従え、生きている獣と目と耳を共にする。
どちらも同じ『闇の力』だが、祝が生まれ持つ力は弱い。人の器が小さくて、溢れるから。
里では社の司を『見張り』、祝を『守り』と呼ぶ。死ねば力が生まれてくる里の子に受け継がれ、死ぬまで消える事も、奪われる事もない。だから掛け続けた。
この命と引き換えにしてでも、里の皆を守りたかったから。
あの男は死んだ。嬲り殺され、骸は獣に。松田は耶万に滅ぼされ、生き残りは居ない。『耶万の夢』で死に絶えた。
欲を言えば、もっと早く・・・・・・。
「あかり。」
祝の、それも滅びの力を生まれ持った我が子に、父と母は『明里』と名付けた。里を明るく照らす、光になってほしいと。
母さん、父さん。私は里を明るく照らせたでしょうか。皆の心と魂を守るため、戦えたでしょうか。もっと早く気付いていれば、違う道が開けたのに。
「あかり。」
そうですね、悔いても時は戻りません。前を向いて歩きましょう。元には戻せませんでしたが、出来る限り整えました。花を手向け、水を供えました。
みなさん、戻られましたか?
人は死ぬと隠になり、生まれ育った地に戻ります。けれど私は、もう戻れないでしょう。
悔いはアリマセン。為すべきことを為し、力を尽くしたのですから。
「あとり。」
・・・・・・ここは犲の里。私は死んで妖怪となり、闇堕ちした。大貝神の代替わりに関わり、共に清められ消えたハズ。
なのに、ナゼこの地に。
「あとり。」
雲の間から光が射し、里を照らす。聞いた事のない、美しく優しい声。
「私の名は明里、アトリでは御座いません。」
聞こえる。遠くで子が、親を求めて泣いている。捨てられたのか、死に別れたのか。何れにせよ捨て置けぬ。ん、なぜ聞こえた。
「目覚めたか、悪取。」
赤い目をした白い大蛇。はじまりの隠神?
信じられない話だが、そうか。大貝神の代替わりに力を尽くした事が天つ神に認められ、清められてから里に戻されたと。
里が滅んだ事で失われた二つの力。社の司が生まれ持つ『獣の力』と、祝が生まれ持つ『滅びの力』を授かる。
それダケでは無い。死んで妖怪となり得た新たな力、悪しきモノを奪う力も戻った。
悪取、分かり易くて良い。
御犬様、隠犬さま。明里は悪取になりました。隠として人の世に在る限り、この地を守ります。
「大蛇神。私が人の世に留まる間、この地で隠を助け導く事、国を建てる事、御許しください。」
「ウム、許す。」
隠の世は閉ざされたまま、いつ開くのか分からない。ズッと先になる。だから開くまでの間、人の世に留まる事が許されたのだ。
松田は耶万に滅ぼされ、生き残りは『耶万の夢』で死に絶えた。
泉や池、川にも毒が撒かれ、松田の縄張りから生き物が消える。もう暮らせない。里も村も国も無い。
なのに居る。悪しきモノが松田に潜み、悪さを繰り返す。浦辺に子を、傷ついた娘を捨てるとは! 許せない。
授かった力を使って、生きるのに疲れた全てを救おう。