9-82 ダミー完成
・・・・・・空っぽの社を吹出山の頂に。建てるのは良いけど、その先は?
叢闇剣の話は人だった時、チラッと聞いた事がある。手に入れると、王の中の王になれるトカ何とか。鏡と珠の他にもイロイロありそうだが。
中の東国にあった闇喰らいの品は、残らず清められたんだよな。『叢闇の品』と『闇喰らいの品』が違うのは解った。
まぁ、悪くナイと思うぜ。『吹出山に納められていると思わせる』ってのは。
吹出山って、黄泉平坂だっけ? 根の国に続く道が、山のドッカに在るんだよな。ホイホイ吸い込まれりゃ悪いのが消えて、人も妖怪も暮らし易くなる。
イイのためにも、張り切って建てるか。
「社は作りますが、取り仕切りません。壊れれば作り直しますが、守りません。会岐のフタ、大石のクベ、千砂のモトも同じ事を言うでしょう。」
ソウデスヨネ。
「それでも良いなら、加津社で誓ってください。」
「はい。社は石積みで、お願いします。」
ペタッと伏せ、キュルルン。
加津神の御許しを得て、吹出山に向かった。
イイを残して行くツモリだったのだが、ミカから離れなかった。拗ねれば言って聞かせられる。けれど抱きつき、ジッと見つめられると・・・・・・何も言えない。
「着いたぞ、イイ。」
闇の力を使って加津から一っ飛び。日ごと力を増しているので、ラクラク移り動ける。
「カノシシにイノシシ、兎もイッパイ。」
ジュルリ。
「そうだな。社を建てたら、狩りに行こう。」
「うん!」
キラキラと目を輝かせるイイを、離れて見つめる黒狼族。分かり難いけど顔、真っ青。
一口に石積みの社と言ってもイロイロある。石を積んであれば全て、石積みの何かになるのだから。
因みに良村にある大蛇社は、良山に転がっていた黒曜石で建てられた。
『うんひょっ、うんひょっ』と声を出しながら、力いっぱい頑張るマルの姿に大蛇、感激! 気づかれないよう力添えしたので、幼子にもラクラク運べた。
扉は付いていないが、はじまりの隠神に相応しい大豪邸である。
黒曜石はガラスのように艶の多い、灰黒色の火成岩。
貝殻状に割れる破片は鋭く、石槍や矢尻、刃物などに用いられた。装飾用・文鎮・硯などに加工されると言えば、ご理解いただけるだろうか。
「さて、どの石にしようか。」
吹出山にはゴツゴツとした、控え目な石ばかり。
「ミカさん。あの石、大きいよ。」
イイよ、アレは石というより岩である。
「フム、切るか。」
闇を伸ばしてサクッ、パカァン。狼ズ、ポカァン。
ウコだけでは無い。皆、思った。ミカを敵に回してはイケナイと。
アングリしている間に完成した社は、それはもう立派なモノ。管理するのはモチロン、黒狼族。
「こんなモンか。」
ダミー完成。
「じゃぁ、後は頼みます。イイ、狩りに行くか。」
「ハイッ。」
暫くすると吹出山に、鹿と猪の悲鳴が響いた。