9-81 ハイ、喜んで!
黒狼族の住処は、吹出山の頂あたり。吹出社は麓にあるので、山から通ってマス。
なぜ黒く生まれたのか、サッパリ分かりません。けれど我らはタイリクオオカミ。イロイロあって、海を越えました。
麓に住めば良いのに? いえいえ。野で暮らすのは野犬、山で暮らすのが山犬。我ら狼、山犬よん。アッ、やまとでは犲ですネ。テヘッ。
思ったより親しみやすい? そうなんです。私ども争いが嫌いで逃げ出し、コホン。己の心に嘘が吐けず、群れを離れました。
社の皆さまには、大変お世話になって居ります。ニコッ。
・・・・・・行かなきゃダメ?
いえいえトンでも無い。御呼びとあらば馳せ参じ、身命を賭して戦います。
伝令使は居りませんので、時には尻尾を巻いて・・・・・・じゃない。戦略的撤退も視野に入れ、確実に情報を齎します。
エッ、あやしい? 根性無し、情けない、ヘタレ。何とでも言え! 命は一つ。どんな状況下でも、生きる事を諦めない。それが黒狼族デス。
・・・・・・イヌ使い、荒いな。
大蛇神の仰せだもん、行きますよ。断れません。何てったって、はじまりの隠神で在らせられる。
ずっと先の話ですが、隠の世に引っ越す予定なので。ウフフ。
そりゃソウです。妖怪がいつまでも人の世で暮らせるワケがナイ。何れお世話になりますから、今のうちに。ハッそうじゃない。えっとハイ、喜んで!
「ごめんください。」
加津の外れで黒狼族の長、ウコ。お座り。
「はぁい。」
トコトコと、イイが駆けてきた。
「吹出神の使いで参りました。使い狼、ウコと申します。国守のミカさんに、お会いしたいのですが。」
「今、社で議っています。終わるまでコチラで、お待ちください。」
真中の七国。それも倭国と飛国から濃く、深い闇が噴き出した。闇堕ちした妖怪が押し寄せ、津久間との境で清められたらしい。
人の世は開いたが、隠の世は閉ざされたまま。もし合いの子が・・・・・・。
扱いなど、いろいろ詳しいのは四妖。会岐、大石、加津、千砂の国守たち。
社を通らなくても、闇の力で遠くへ行けるのは加津の国守、ミカだけ。だから直ぐにも津久間へ。という話が出たが、引っ込んだ。
四妖が引き取った合いの子は、幼児の姿をしているが嬰児。嬰児よりシッカリしているが、健やかに育つには引き離せない。
アレやコレやで、寂しい思いをさせてしまった。とはいえ捨て置けない。
伝えられる事は全て伝えた。トンデモナイ何かが起きたら、社を通して助け合う事になっている。今は良くても、これから。そうなった時、どう動く。
子守りをしていたのは加津神の使わしめ、ロロ。議りが終わると社へ飛び、ミカを連れて戻る。
「お待たせしました。」
駆け寄ったイイを抱き上げ、ミカがニコリ。
「先触れも出さず伺い、申し訳ない。」
クゥン。
「あのね。まん丸い兎を、いただいたの。」
バッチリ血抜き済み。家に置いてマス。
「良い品を、ありがとうございます。」
朝一だと悪いので十時ごろ、贈り物を持って伺いました。気に入ってもらえたようで、良かった良かった。