9-80 何も持たせず帰すワケには
この度の儀に加わった使い隠たちに、三日の休みを与え為さった大蛇神。天つ国へ急ぎ参り、議らなければナラナイ。統べる神が代替わりしたのだから。
けれど片づけなければイケナイ事が一つ、残っている。
叢闇鏡と叢闇珠を、根の国からしか入れない地に神倉を建て、納めた。ココまでは障り無く、スラスラと進む。
残るは力を求める悪しきモノから守るため、見せかけの社を吹出山に建てる事。決めたは良いが人の世。隠の世が関わるワケには・・・・・・。
けれど頼み難い。
「大蛇神。思い切って、妖怪の国守に頼みましょう。」
那荒山の治めの隠、鹿神。
「それは良い。で、南国から送られるのか? 四つ国からは送れぬぞ。」
讃良山の治めの隠、狸神がニヤリ。
中の東国に建てるのだ。南国や四つ国からドウコウとは思わぬ。が、妖怪の国守。吹出山の近くなら会岐、千砂。
加津の国守は、黒狼族と顔見知りだったハズ。思い切って頼むか。ヨシ、そうしよう。
「明くる朝、加津社へ使いを。」
「ハッ。」
この度の大祓により、大貝山の統べる地から闇が消えた。ミカの家で休んでいたモトとフタ、揃ってビックリ。
信じられないホド、体が軽くなったから。
会岐にはミイ、千砂にはヨヨが待っている。せっかく加津に来たのに、何も持たせず帰すワケには。というコトで、取れ立ての海の幸を持たせた。
「ただいま、ミイ。」
「おかえりなさい、フタさん。」
ギュッと抱きつき、スリスリ。
「加津でね、魚を貰ったよ。」
目を輝かせ、ジュルリ。
「少し早いが、夕餉にしようか。」
「うん!」
加津社を通って千砂に戻ったモトに、ヨヨが駆け寄り抱き着いた。
「おかえりなさい、モトさん。」
「ただいま、ヨヨ。」
「あのね。川向うで群れていた獣、森に帰ったよ。ネットリしたのも消えて、キラキラした。」
「そうか。」
頭を撫でられ、ウットリ。で、キュルルゥゥ。
「加津で魚を貰ったんだ。少し早いが、夕餉にしよう。」
「わぁい。」
加津社を通って大石に戻ったクベに、ムゥが泣きながら抱き着いた。
「どうした、ムゥ。」
「おがえりなざいぃ、クベざぁん。」
「ただいま、ムゥ。そうだ、加津で魚を貰ったんだ。」
ピタッと泣き止んだ。
「ほら、大きいだろう? 少し早いが夕餉にしよう。」
「わぁぁ、美味しそう。」
生きが良い魚にクギヅケ。
腰麻は海から離れた山の中。海の幸を前に皆、ウットリ。
飢えや寒さに苦しめられる事は無くなったが、人が少な過ぎて、思うように立て直せずにいる。
「喜んでもらえて良かったね、ユキ。」
「ええ。」
貰った魚を幸せそうに頬張る子を見つめ、ニッコリ。
辛い事、悲しい事。思い出したく無い事もイロイロあった。けれど闇に染まることなく、ちゃんと生きている。
心の傷は消えないし、忘れられない。それでも幸せになれると信じて。