9-79 丸投げするダケなら要らぬ
松田に滅ぼされた里や村、国の全てが壊されたワケでは無い。浦辺や松田など、国があった地には残されている。
ソコに住み着いたのは悪い人、罪を犯した人。
家から煙が上がると、狩りが始まる。
捨てられた合いの子にとって、松田の縄張りに居る人は食べ物。獣とは違うが、裸ん坊では無い。というコトは違う生き物。迷わず狩り、バリバリ食らう。
ジュゥゥゥ。
松田の縄張りに捨てられた、人と妖怪の合いの子たち。隠の世へ行く事も、根の国へ行く事も無く清められた。
生まれた地に神が御坐せば、妖怪の祝か国守が居れば、生きられたカモしれない。生まれて直ぐに引き離され、引き取られ、幸せに暮らせたカモしれない。
隠の世から拒まれた妖怪、人の世で暴れ続けた妖怪、悪しい全てが祓い清められた。松田の縄張りに残っていたり、持ち込まれた闇喰らいの品も残らず。
張り巡らされていた罠がベチャッと落ち、スッと消える。
大祓の儀は終わり、静まり返った。そして直ぐ、暑い雲を引き裂くように、空から光が突き刺さる。その真中で絡み合う、二つの魂。
一つは大貝神、もう一つは。
ピキッ。ピキピキッ。
逃げたくても逃げられない。何だ、この糸は。土の糸とは違い、ネバネバしている。
・・・・・・祝の力? この男、なぜ動かない。なぜ離れない、何が可笑しい。死ぬのにナゼ、助からないのにナゼ笑えるんだ。
「ニガシマセンヨ、オオカイノカミ。」
犲の里の祝だった明里の目から、光が消えている。
祝の力を失い、悪いモノを取る力を得た。それを揮いながら逃さないように、己ごと包んでいる。
バキッ。バキバキッ。
放せ、今すぐ放せ。私は死なない、死にたくない。代替わりナドせずとも、心を入れ替え。そうだ、私は生まれ変わる。・・・・・・生まれ変わる?
「ダイガワリ、ナサイマセ。」
目から鼻から耳から、サラサラと何かが溢れ出る。
ボキッ。ボキボキッ。
長瀬山に闇を捨て、山を流したのは悪かった。アレで罰を受けるなら解る。けれど、この度は。
確かに『次は無い』とキツク言われ、誓った。誓ったから何もせず、大貝山に籠り。籠り?
「マイリマショウ。」
抗う神を搦め捕り、明里が囁く。
キィィン。グシャッ。
強い力で押し縮められ、血も肉も魂も消えた。光の筋がボンヤリ霞み、スッと吸い込まれる。舞うように。
「終わったか。」
和山社にて、大蛇神。
「はい。」
鯉神、ニッコリ。
国つ神に限らず、神は人のアレコレを見守るのみ。けれど同じ国つ神から、何らかの助けを求められれば動く。手を差し伸べる。そのために御坐すのが統べる神。
丸投げするダケなら要らぬ。働け!
現れ出られるまで、我が治めねば。・・・・・・ハァ。
「申し上げます。中つ国、人の世。大貝山の統べる地に残されていた闇喰らいの品、全て祓い清められました。」
飛んできたのは使い蜉蝣、浮。
「ウム。皆、良く働いた。ゆっくり体を休めよ。」
ニコッ。