9-73 オレが祝だ男だよ
私は、何と恐ろしい事を。統べる地で何が起きたのか、包み隠さず聞いたのに。聞いていたのに動かなかった。
助けを求められたのに押し付け、見て見ぬふりを続け、丸投げしたのだ。
もし動いていたなら、大祓に加わっていれば。
悔いても悔いても時は戻らぬ。死なせずに済んだ、救えた。なのに私は何もせず、いや違う。統べる神なのに、統べる地を見捨てた。
この地で生きる生き物を、見殺しにしたのだ。
「祝を逃がすなぁぁ。」
「オォォ。」
来い来い来い来い、ついて来い。里から離れろ、今すぐ離れろ。祝はココだ。
この命に代えても、皆が旅立つ時を。御犬様、隠犬さま。どうか、どうか皆の魂を御導きください。
犲の里は滅んでも、いつか必ず戻ります。死んでも、這ってでも戻ります。ですから皆を、魂を御守りください。
「矢を放てぇ。」
シュンシュンシュン、ブサブサブサッ。
「ヒヒィィン。」 ワァァァッ。
ドタッ。
前から横から後ろから、矢の雨が降る。祝が乗る馬に中り、振り落とされた。腰を強く打ち付けた祝は立ち上がり、フラフラしながら走り続ける。
「追え、追えぇ。」
少しでも里から離れようと、祝は走る。腰に右の手を当て、痛みに顔を歪ませながら。顔を隠すため被った布を、左の手でシッカリ掴んで。
顔を見られたら気づかれる。松田のヤツ、祝に会いたいと近づいてきた。オレが祝だ男だよ。
松田は里の祝が、逃げた祝が男だと知らない。
「つぅか、まえぇ、たっ。」
き、気持ち悪ぅ。
「ヘヘッ。イイ尻してるゼ。」
ゾゾゾッ。
「大王の女だ。ソレくらいで止めとけ。」
「もうチョットくらい、イイじゃねぇか。なぁ?」
耐えろ、耐えるんだ。
祝が生まれ持つ闇の力、人に扱える滅びの力は弱い。操れるのは三人。耶万に殺させるには、大王にダケ。三人に使う力を、大王一人に叩きつける。
他の国には見向きもせず、耶万まで突っ走らせるんだ。
そうだ、今井を通ろう。
耶万に敗れ死に絶えた。あの地に居るのは耶万の臣と、放り込まれた奴婢。毒を作るのに使われていると聞いた。
「祝を寄越せ。」
「お、大王。」
裾から手を入れ、内腿をサワサワ。恥じらいながら手首を掴み、弱弱しく押し退ける。
声は出さない。股と胸は触らせないよう、体を丸めて逆らう。後ろから抱きしめられるまで、耐えて耐えて耐える。
「んっ!」
カカッタ。
「耶万、耶万を攻める。」
???
「続けぇぇ。」
「ハッ、ハイィィ。」
脂ぎったオッサンに、ピッタリ身を寄せる祝。大王の腿や胸に手を伸ばし、滅びの力を重ね掛け。
男にサワサワされているのに全く気づかず、デレッデレ。