9-71 死ぬ事は無いだろう
ココは松田の縄張りだった地。悶え苦しみながら死んだ者の魂が、当ても無くアチコチ歩き回っているのか。
フッ、違うだろう。流した血と共に沈み、眠っていたのだ。風が吹き、土に埋もれて。
「オレを殺しても、松田は」
シュパァァァ。
「皆、すまない。里を知られてしまった。」
傷を負い、倒れていた男を助けた。初めは手当をして、崖の洞に運んだダケ。気を失っている間、持ち物を調べた。判る物は何も。
体のドコにも傷が無い。浅黒い肌をしているのに、手に肉刺が無い。髪を切られたのか短く、右と左で長さが違う。
里から遠い洞を選んだのも、女を遠ざけたのも気持ち悪かったから。
悪いカンは当たる。里に入れてはイケナイ、きっと禍を齎す。だから狩頭に伝えた。『コイツはアヤシイ、気を付けろ』と。
「長は悪くない。私が、私が気を許したから。娘に身の回りのコト、頼んだから。」
娘は十一で、とてもシッカリしていた。『十二になったら契ろう』と誓った、好いた男が居たのに。
襲われたり、毒を盛られたワケじゃナイ。里の者とは違う姿をした、整った顔の男に褒められ煽てられ、その気になった。
気づいたのは婆さま。女親が居れば、後添えを迎えて居れば違ったか。
松田との戦いに備えるため、男が出切っていた。間違いが有ってはイケナイと、娘や若い女を近づけなかったのに。
十一の子が、あの子が孕むなんて。
「あ、たし。ご、めん、な、さい。」
初めは何とも思わなかった。でも褒められて、『カワイイね』とか『モてるデショ』とか、『もっと早く会いたかった』とか言われて。それでアタシ。
初めから騙す気で、その気にさせて。愚かよね、そうよね。好きじゃなくても、女なら何でもイイよね。
里の娘を孕ませれば、『二人で子を育てます』なんて言われれば、迎えるよね。・・・・・・裏切って、ごめん。
「キャァァァ!」
里の子が叫ぶ。
「どうした。」
「外れか?」
何となく、『オカシイな』って思ったの。でも母さんが『ソッとしておこう』って、そう言ったから。でも気になって、それで探しに行ったの。そしたら。
里の外れに掘った穴。階の殻とか獣の骨とか、食べられない物を捨てる穴。その中に倒れてた。何かをもって、首の横を押さえてる。血が飛び散って、真っ赤で。
「死ぬ事は無いだろう。」
狩頭が泣き崩れる。
十一の子を唆し、契ると偽って交わり、孕ませた。子を狙ったのは真っ新で、何も知らないから。
一度では無い。幾度も繰り返し。
そうなったから、子が出来たからと親に近づき認めさせ、隠れ里に入る。
いきなり攻め込まれ、松田に組み込まれた。他の里も、そうして滅んだのだろう。
「他の里や村と、付き合いが有れば。」
松田の遣り口を知っていれば、こんな事には。
「長! 松田だ。谷の橋を落とされ、囲まれた。どこにも逃げられない。」
悲しみに包まれる里に、伝令が入る。