9-69 準備完了
慌てふためき為さる大貝神、キョロキョロ。いつもなら使わしめ、土が現れるのだが・・・・・・。
「松田の縄張りがあるのは大貝山の統べる地。大貝神が出向かれ、御調べ遊ばすのが宜しいかと。」
サラリと加津神。
「そうですね。」
楽し気に耶万神。
「では皆、頼めるかな。」
千砂神、ニッコリ。
『頼めるかな』って、何を。『御調べ遊ばす』って、エッ。いや、イヤいやイヤ待て。ヒョエッ。
「妖怪の国守なのだから、人の為に生きよ。」
ハッ!
「国守である前に親だ。人でも妖怪でも、親が子を守り育てるのは当たり前。」
言い切るミカの側で、クベが頷く。
「人に託すのが嫌なら、使わしめに引き取らせる。それなら良かろう。」
良いワケ無いだろう。
「子が使い捨てられると分かっていて託すほど、オレたちは愚かじゃ無い。」
ミカもクベも、妖怪になる前は奴婢。使い捨てられる痛みを、嫌と言うほど味わった。誰の子であっても、子に同じ思いをさせたくない。
「妖怪の国守が調べなければ、何れ闇に落ちる。大貝山の統べる地が、闇に落ちても良いのか。」
「ケッ。何を言い出すかと思えば、それでも神か!」
ナッ! 神に何というコトを。それでも国守か。って、あれ? 三柱ともナゼ、穏やかな御顔を為さる。
加津神、コレは加津の国守。キツク叱り、従わせなければ。
「松田に滅ぼされた里や村、国から闇が溢れたのです。」
千砂の祝人だった、妖怪の国守モト。
「大祓の儀を執り行い、清らになってから御調べください。」
会岐の祝人だった、妖怪の国守フタ。
や、止めて。そんな目で見ないで。千砂神、耶万神、笑ってナイで・・・・・・お願い、助けて。
「それが出来れば苦しい思いなど、せぬわ!」
大貝神、まさかの逆切れ。
「統べる神なら、四の五の言わずにヤレ。」
「ヒャッ。」
ミカに首筋を掴まれ、社の裏に連れ出された。『止めよ』と言おうとした時、口の中に闇が撃ち込まれる。フタの闇は死ぬまで尽きない。
大貝神の御頬が、餌を詰め込んだリスのようにパンパン。
「サテっと。」
ミカとモトが闇を伸ばし、地に深く突き刺した。ソレを撓ませ、切り取ったクベの闇を括り付ける。
お察しの通り、『ぱちんこ』で飛ばします。
「んむ、んむんむ。」 ツチ、タスケテ。
ユキの闇に縛られた大貝神。膨らんだ頬をプルンプルン為さり、ガタガタ。
何てったって祝の力付き。幾ら神でも、いや神だからこそ引き千切れない。
「少し北、気持ち右。ハイ。」
使い蜉蝣、浮の指示通り微調整。
「ユキさん、乗せてください。」
「はい。」
クベの闇の上にポン。と当時にクルッ。
「思ったより重いですね。少し、強く出来ますか?」
ミカとモトが見合い、頷く。
「はい、ありがとうございます。」
準備完了。