9-68 消えますよ、人の世から
人と妖怪の合いの子は増える事が有っても、妖怪の国守が増える事は無い。なのに『命を惜しむな』なんて、信じられない。
合いの子は生まれる前に死ぬ。
胎の中で死ぬか、腹を食い破る。体が出来てないから、出ても長く生きられない。母の骸を食らい尽くしても満たされず、飢えに苦しむ。
人と同じように生まれた子は、他にも居た。大石にはヒイ、千砂にはフウ。どちらも母を食らって、殺すしかなかった。
生まれる前に死んだ子が多かったのに、生まれた子を殺さなきゃいけなかった。その苦しみが解りますか?
人から生まれた妖怪の子を人が引き取り、育てられると御思いですか。
人の心が壊れたら? 妖怪の血が騒ぎ、暴れたら? 止められますか、人に。押さえられますか、人に。殺せますか、人に。
フタさんモトさん、クベさんミカさんも迷わず止めます、押さえます。
殺したくないから壊れないように、暴れないように育てているのです。厳しく躾け、慈しみ、人を守れる妖怪になるように。
「大貝神。合いの子は人で、妖怪です。そんな子を人に育てられると、そう仰るのですか。」
「人の世で生まれ、暮らして居るのだ。それに祝なら妖怪など、直ぐに滅ぼせるだろう。」
五妖の目がギラッ。
「その時はユキ、人の祝を支えよ。」
「なぜ、私なのでしょうか。」
「妖怪の祝であろう。おぉ、そうだ。国守が死んだら、合いの子を腰麻に送ろう。」
もし腰麻に合いの子が生まれても、私が引き取る事は無い。後見として教え、導くだけ。我が子のように慈しんでも・・・・・・育てられない。
腰麻には私だけ。光の力は無くても、祝の力は有るから。人も妖怪も祝は守られる。だから私は、どんなに望んでも国守になれない。
国守に引き取られた合いの子は、大きくなったら国守になりたいと思っている。もし私に引き取られれば、育て親と同じ道を進めない。夢を捨てなければナラナイ。
歪み壊れた子を守るために、私は。託された子を殺さなければ・・・・・・ならない。この手で。
「大貝神、お忘れですか。合いの子の扱いについて。」
大きくなったら好いた人と契って、親になる。キャッキャと笑いながら、ユイと話したな。正妃みたいに優しく、美しい母になるんだって。
「何の話だ。」
「大貝社を通して、隠の世にと。」
私は産めない、引き取れない。国守じゃなきゃ、合いの子の親になれない。母になりたくてもナレナイの!
「・・・・・・あぁ、そうか。」
歯を食いしばって耐えるユキを隠すように、ユラが抱きしめた。ミカたち四妖は見合い、黙って立ち上がる。
「な、なにを。」
「妖怪の国守を使い捨てるなら、引き取った合いの子を連れて、隠の世に引っ越す。」
氷のように冷たい目でイイの父、加津の国守ミカ。
「人の世に居る限り、死ぬまで使われるのでしょう。」
抑揚のない話し方でミイの父、会岐の国守フタ。
「子の命と幸せを守るのが、親の務め。」
鋭い目をしてヨヨの父、千砂の国守モト。
「合いの子を育てられるのは、守るために戦える妖怪だけ。だから消えますよ、人の世から。」
無表情でムゥの父、大石の国守クベ。
「まっ、待て。考え直せ、落ち着け。」
「大貝神、私も隠の世へ参ります。」
闇蛇ユラを腕に巻き、腰麻の妖怪の祝、ユキが笑う。
「な、に・・・・・・。」