9-65 悪い知らせ
闇から出てから加津の長に会い、社の司か祝の家を訪ねるツモリだった。その前に国守の娘に会うなんて。
「闇から出るまで、アッチ向いてましょうか?」
『見られていると、出られナイのかな』と思ったイイ。ニッコリ。
「はい、お願いします。」
ヒョイと出られるが、女の子が気を遣ってくれたのだ。受け入れるのが男の務め、なんてコトを考えるアサ。
カッコつけたいオトシゴロ?
いつもなら『タン』と元気よく飛び出すが、そっと出た。衣や髪の乱れが気になって、ササッと直す。それから大きく息を吸い、静かに吐く。
「お待たせしました。」
ニコッ。
「社の司より言伝を預かって居ります。国守のミカさんに急ぎ、お会いしたいのですが。」
「分かりました。どうぞ、こちらへ。」
加津社では神議り、国守の家では妖怪の議り、長の家でも話し合いが行われている。集まったのは社の司と祝、婆さまに長、浦頭と狩頭の六人。
お通しする家が無い。
外で待たせるのは悪いと思い、泉の側にある日よけに導く。切り株で作った、いろんな大きさの腰掛けがある。
清めの泉の近くで、とても清らだ。過ごし易いから少しなら差し支えナイ。
「こちらで暫く、お待ちください。」
頭を下げ、ニコリ。
スタスタと早歩きで家に戻り、コンコン。
「どうした、イイ。」
「ミカさん。耶万から継ぐ子のアサさんが、いらっしゃいました。『急ぎ、お会いしたい』って。」
会岐、大石、千砂から妖怪の国守。腰麻から妖怪の祝と、その使い蛇が来ている。幾ら社の継ぐ子でも、これだけ揃えば驚くだろう。
「そうか、分かった。」
そう言って直ぐ、家の中からミカが出てきた。
「行こうか。」
「はいっ。」
噛まずにキチンと伝えられた事を褒められ、誇らしげに胸を張るイイ。難しい話をして、気落ちしていたミカも嬉しそう。
「お待たせしました。加津の国守、ミカです。」
「こんにちは。耶万社の継ぐ子、アサです。」
言伝を聞き、アサを見送ったミカ。イイに加津の守りを任せ、家に戻る。
「皆、聞いてくれ。気になる話を聞いた。」
「悪い知らせだったの?」
「・・・・・・まぁな。」
ゲッ。采も大野も安も、トンデモナイ事しか出来ないらしい。犲を手懐け従える力を得るため、松田が滅ぼした隠れ里に生贄を捧げる?
ハァ、クラクラしてきた。
生贄ってコトは、当たり前だけど生きたまま放り込むんだろう? ってか滅んだ里に捧げても、どうにもナラナイだろうよ。
少し考えれば分かりそうなモンだぜ。
「人だった時から、悪い話しか聞かなかったが。」
「ええ。ココまでヒドイとは思いませんでした。」
元、祝人。フタとモトが頭を抱える。
「シシやサルなら解りますが、人を生贄にするなんて。」
呆れ顔で、ユキが呟いた。