9-64 そりゃ気づかれる
耶万は落ち着いた。けれど組み込んだ中には、暮らしが立ち行かない国も。
頭が痛いのは悦、采、大野、光江、安の五つ。何れも戦好きで周りの国を滅ぼし捲ったから、支え合える国が一つも無い。だから五つは固まる。
采は他に比べると残った。安と大野は生き残ったものの、思うように動けない大人が多い。采、大野、安が巻き込んだ国は、その多くが滅ぶ。
井上も安井も戦に敗れ、死に絶えた。
久本に残ったのは、信じ尊ぶ心を持たない子だけ。己の頭で考えられず、言われた事しか出来ない。だから『耶万の夢』を作らされている。
悦と光江はアチコチ仕掛け、生き残りを売り捌いた。耶万に知られて滅ぼされたが、組み込まれて残る。なのにイロイロやらかして、その多くが死んだ。
光江に残ったのは使えない子と親無し、悦に残ったのは子と年寄り。
「何を考えているのか、さっぱり分からない。」
耶万の社の司、アコが嘆く。
悦、采、大野の生き残りが懲りずに、光江と安の生き残りと悪巧み。会岐、加津、腰麻、千砂に狙いを定め、仕掛けた。
会岐、加津、千砂には妖怪の国守。残る腰麻には妖怪の祝が居る。アッサリ負けた上に『人も物も送らない』と言われ、逆切れ。
「五つとも切り捨てよう。」
耶万社の禰宜、ザクが言い切る。
「それは良いけど、その前に。」
「そうそう。」
祝人頭のダイと、祝女頭のリキが微笑む。
社の司や禰宜が、遠く離れた加津へ行くのは良くない。耶万の大王になったコロも、大臣になったキキも大人しくしているがアヤシイ。
どうもアレらとコッソリ会って、イロイロ話している。
コロにもキキにも闇の種が植わっているから、裏切れば死ぬ。二人ともソレは解っている。だから、そう深く考える事は無い。とはいえ気になる。
「誰が行く?」
育てのヤヤが切り出した。
松田の縄張りだった地、それもアチコチから闇が溢れた。
松田は耶万に敗れ、滅ぼされた国。大貝山の統べる地にある。けれど大貝神には困ったコトに、難しい事や嫌な事を丸投げ為さるクセが御有りだトカ。
加津では今、神議りが行われている。集い座すは千砂神、加津神、耶万神の三柱。社を通らなければ、人がスイッと遠くへ行けない。
となると・・・・・・。
「アサ。加津の妖怪の国守に、言伝を頼めるかい。」
「はい、アコさま。お任せください。」
耶万から加津まで真っ直ぐ、のんびりスイ、ススイ。アッという間に行き着いた。誰も居ない事を願いながら、頭だけ出してキョロキョロ。
エッと、どうしよう。目が合った。
「こ、こんにちは。」
闇に潜ったまま、アサ。
「こんにちは。私は国守の娘、イイです。」
少し離れた所に座って、ニコリ。
「私は耶万社の継ぐ子、アサです。」
出るに出られず焦るも、キチンと自己紹介。
加津の国守は妖怪。その娘ってコトは、引き取られた合いの子。驚くほど賢くて、見えないモノや隠されているモノを探り知る力が有るって。
・・・・・・ウン、そりゃ気づかれる。ハハッ。