9-63 嬲り殺された祝は誓う
戦狂いの松田は形振り構わず、縄張りを広げ続けた。より多くの兵を得るためダケにイキナリ仕掛け、奪い尽くす。
そんな松田にも落とせない里が、縄張りの真ん中にあった。あの隠れ里だ。
犲を手懐け従え、闇の力で操る祝が居る。そんな噂を信じ、血眼になって探し続け、やっと見つけて滅ぼした。
闇の力にもイロイロ有るが、『獣の力』を持っていたのは生まれたばかりの里長の倅。祝が生まれ持つのは『滅びの力』。
そうとは知らずに嬰児を殺し、祝を捕らえた松田の大王。強いと聞いていた里を滅ぼした事に気を良くして、そのまま耶万に攻め込む。
少し考えれば判る事なのに、突っ走ったのは祝の所為。
女のフリをして、大王を誑し込んだのだ。騙し打ちで里を滅ぼした敵に同じ、いや生まれた事を悔いるような苦しみを叩きつけるため。
衣の裾や襟から手を入れられ、恥じらった。尻を摩られても、腿を摩られても耐えた。
コイツは私を女だと思っている。押し倒される前に耶万に突っ込ませ、息の根を止める。耶万に松田を滅ぼさせるんだ。
祝が生まれ持ったのは、触れた人の身を滅ぼす力。獣を従える力など無い。だから思った。『滅びの力では無く、先見や先読の力が有れば里を守れたのに』と。
力を受け継いだ子が、もっと早く生まれていたら。嬰児ではなく幼児だったら。そんな事を考えても、どうにもならない。
いくら強い狩り人が居ても、あれだけ送り込まれれば勝てない。いろいろ備えていたのに、アッサリ負けてしまった。
「・・・・・・なんと。」
「里が朽ちても残るほど、強い思いが。」
「隠れ里とはいえ、今も留まるとは。」
男だと偽り騙していた事が知られ、嬲り殺された祝は誓う。里の皆を手厚く葬るまで、死んでも死なないと。
「松田の者は皆、殺されたと聞いたが。」
「生き残りが集められ、苦しみながら死んだと。」
「毒を強めた『耶万の夢』を試され、殺されたと。」
仕掛け攻め込み、奪う。そうして里や村、国を滅ぼし続けた松田。その大王は耶万の大王に嬲り殺された。
女に化けた祝に嵌められ、生まれた事を悔いながら。
残った兵は奴婢となり、耶万のために戦って死ぬ。歯向かう事の無いように、他の生き残りは全て殺された。
いつもなら男は戦場へ、女は盛り場へ。子は売るか兵に育て、年寄りは『耶万の夢』を試すのに使うのに。
「白い森の南にあった、隠れ里。」
「御隠れ遊ばした国つ神。」
「犲を手懐け従える力と、触れた人の身を滅ぼす力。」
・・・・・・ハッ!
「御犬様。」
加津神、千砂神、耶万神。三柱の御声が合わさった。
里で祀られた犲の隠、御犬様。闇堕ちから使わしめを守るため、力尽くで放たれる。そこまで為さったのに誰一人、守る事が出来なかった。
人の世の隠は神で在らせられても、生き物に触れられない。
放たれた使わしめも犲の隠だった。放たれる事を拒むも、放たれてしまう。それでも神に付き従い、里を清める支えとなった。
里の皆が彷徨わぬよう、その身と魂を捧げるために。
「使わしめだった犲も、神と共に。」
「はい。・・・・・・祝の事を考えると、涙が。」
「己の思いが闇に染まるとは思わなかったのでしょう。それなのに、このような事になって。」