9-58 気を付けよう、イノシシ急に止まれない
叢闇珠が納められた雫湖は、叢闇剣が納められた耶万に近い。近いと言ってもソコソコ離れているが、万が一に備え、一山の使い隠に頼んだ。
雫湖が在るのは一山。少しでも悪しい何かが近づけば、直ぐに判る。鳶は風に乗るのが上手い。狙った獲物は逃さないし、小回りも利く。
叢闇鏡が納められた蛇谷は、大貝山の使い隠に頼んだ。隠の世では一山が統べる地だが、人の世では大貝山の統べる地。
かなり離れているが、使い蜉蝣は強い。体も翅も弱弱しく見えるが強靭で、心臓を打ち抜かれれば即死。ふよふよフワフワしているが、高速移動可能。
本気を出せば『光速が出せる』とか、『猛禽類を凌ぐ』とも言われている。
それぞれ引継ぎを終え、一つしかない出入り口を閉じた。和山社から許しを得た、隠神の使いダケが出入り出来る。
「疲れたろう。一山の『隠の宿』で、ユックリ休みなさい。」
使い隠を労い大蛇神、ニコリ。
隠の世にある『隠の宿』は、使い隠御用達の高級宿。出で湯は源泉かけ流し。因みに一山は、ソコソコ有名な温泉地です。
「はい、ありがとうございます。」
わぁい! 嬉しいな。
クッタクタのボロボロだった使い隠たち、ウキウキと一山へ。出で湯に浸かってノンビリして、美味しい物を食べて戻ってきてネ。
「一度、良山に戻る。そう長く留まらぬ。」
大蛇はタエに確かめる。先読の力で見た、先の事を。
良村に来た次の日の昼。飛び起きたタエが、夢の中で見たのだ。『どこか分からない、とても広くて開けた地。そこで使われるのは闇の力。ドロンとした糸のような罠を張り巡らせ、捕らえる。』
覚えていたのはココまで。
マルの力だろう。それから飛び起きる事も、泣き出す事もない。いろいろ見るが慌てず、落ち着いて伝えてくれる。
「大蛇神。急ぎ、御伝えします。」
向山の治めの隠、猪神が勢いよく突き進んで、ドーン。
中の東国、津久間の地にある向山。気性の激しい頑固な妖怪が多く、『心が鍛えられる山ランキング』不動の一位を誇る。
その向山から使い隠ではなく、隠神が駆けて来られたのだ。トンデモナイ何かが起きたに違い無い。
「津久間で溢れたか。」
「いいえ。国つ神が御隠れ遊ばした地に、闇喰らいの品が三つ。使わしめが祓い、津久間神が清め為さり、消えて無くなりました。」
「他の地にも、と。」
「はい。」
・・・・・・国つ神が御隠れ遊ばした、とても広くて開けた地。
タエが怯えたのだ、霧雲山の統べる地を脅かす。となると畏れ山、神成山、越道山、斑毛山、大貝山、津久間、具志古の何れか。
霧雲山の統べる地は、山守神が残らず。火炎神、渦風神、高志神、斑神、津久間神、具志古神も倣い、統べる地を調べ尽くされた。
残るは一つ。
「急ぎ、申し上げます。」
大貝神の使わしめ、土が飛び込んできた。