9-57 現実は甘くナイ
嘗て百貨店で行われていた過剰包装が、簡易包装に思えるホドの包みっぷり。高級品扱いされた叢闇の品は、その真ん中でゲッソリしていた。
どう前向きに考えても脱出不可能。真面目にオツトメして、刑期短縮を狙う? 望み薄だね。目を開けてみる夢は妄想、現実は甘くナイよ。
「大蛇神。大貝社より、急ぎの使いが参りました。」
「ウム、通せ。」
叢闇鏡も叢闇珠も、闇を吸われてスッカラカン。クベの闇、加津の清め水、クベの闇、土の糸とシッカリ守られ、外に出たくても出られない。
譬え深い闇に沈められても、幾重にも巡らされたアレコレを突破するなど不可能。
不可能を可能にする? ふぅん。妖怪と祝のアレコレは突き破れても、最終関門はドウかな。
大貝神の使わしめ、土は地蜘蛛の大妖怪。その糸には清らな力が宿っている。引き千切る度、力を奪われるのがオチ。
「ヨシ。叢闇鏡は蛇谷、叢闇珠は雫湖へ運びこみ、それぞれ神庫へ納めよ。」
「ハッ。」
和山社を発った使い隠、大貝社へ急ぐ。
叢闇の品は今、土の巣穴に隠されている。その上に御坐すは大貝神。雪室ならぬ蜘蛛室の中でプルプル、小さく震えて御出でだ。
大貝社を守るは、使わしめ土。さも『ココに神が御坐しマス』という顔で、いつも通りの務めを果たす。
神も使わしめも、心の中では大騒ぎ。隠の世から使い隠が遣わされれば、アワアワしたくもナリマス。
和山社からではアリマセン。隠の世、大貝山より蜉蝣神の使い蜉蝣、浮が駆け付けました。フワフワ閃いてマスが、とっても強い隠です。
良かったネ。
「ごめんください。」
「はぁい。」
使い隠たちは大貝社に着くなり、許し札を出しニコリ。黙って頷く土。
「どうぞ、こちらへ。」
社の中から巣穴に入り、ギョッ。
地蜘蛛の子蜘蛛に守られた大貝神に思わず、祈りを捧げた使い隠たち。おっかなビックリしながらグルグル巻きの、叢闇の品を受け取った。
「では、これにて。」
逃げるようにサササ。
大貝山から一山を通って、隠の世に入る。鳶神の使い鳶、輪に付き添われ根の国へ。門守に和山社の許し札を渡し、調べを受けた。
返された許し札を首に下げ、蛇谷と雫湖へ。大蛇神の抜け殻を目指し、すたこらサッサ。何れも根の国から行けるが、その道のりは険しい。
山あり谷ありクッタクタ。
「つ、着いたぁ。」
ゼイゼイ、ハァハァ。
蛇谷の神庫は嫌呂、雫湖の神庫は悪鬼が手掛けた。清めと守りの力を生まれ持つ大蛇神の愛し子、マルに抱きしめられたコンコンが心を込めてネ。
叢闇鏡を納める、蛇谷の神庫には浮。叢闇珠を納める、雫湖の神庫には輪がつく。蛇谷には浮の使い蜉蝣、雫湖には輪の使い鳶が詰める事が決まってマス。
「では。」
「始めよう。」