9-54 戦なんて、無ければ良いのに
「耶万は攻められ、守るために戦ったダケ。初めに仕掛けてきたのは鎮の西国、儺国。中の西国や真中の七国も加わり、攻め続けている。」
「揃いも揃って出任せを。」
「出任せでも偽りでも無い、真だ。耶万から仕掛けたのではナク、仕掛けられたから攻めた。」
「黙れ!」
「引き続き戦を仕掛けるなら、残らず切り刻む。」
「ハッ。出来るもんならヤッテみろ。」
相手は子、それも一人。社の司だ? どんな力を持ってんのか知らんが、追っ払うダケで戦えねぇ。神に仕えているからな。
生け捕りにしよう、イロイロ使える。クククッ。
「子など敵では無い。」
兵を率いる臣が見開き、叫んだ。
「ヲォォォ。」
兵たちが叫び、前へ。
激しい戦いが始まる・・・・・・ハズだった。一歩踏み出した時、もの凄い勢いで闇の種が芽を出す。
「い、痛い。」
「く、るし、い。」
体が無いので、出た芽が伸びるのが良く分かる。胸から広がり口や鼻、目や耳からドバドバ、見えない何かが流れ出す。
アッと言う間に根でイッパイになり、プチプチ音を立てながら飛び出した。ポポンと葉が開き、ワサワサ揺れる。グングン育って根を張った。
「た、すけ、て。」
「死に、たく、な、い。」
まだ声が出る、話せる。苦しみも痛みも、怖さ恐ろしさも感じる。頭はシッカリしているのに、逃げる事が出来ない。
『動け足、動いてくれ』心の中で叫んでも、思い通りにならない体。首も動かないから、どうなっているのか確かめられない。それでも分かる。助からないと。
「い、やだ。」
「かぁ、さん。」
好きで加わったワケでは無い。殺さなければ殺されるのが戦だ、解っている。でも生きて帰りたい。帰りたい。
どれだけ奪った、それだけ殺した。
妹や弟と同じくらいの子が痩せ細り、死んでいるのを見た。親を奪われ、兄や姉も奪われ、縁の者も奪われ皆フラフラ。
残された子を養う力なんて、少しも残っていない。
オレたちが攻めなければ、仕掛けなければ、戦が無ければ死ななかった。この子たちは親に守られスクスク育ち、好いた誰かと契って幸せに暮らせた。
オレたちが攻めなければ、仕掛けなければ、戦が無ければ死ななかったんだ。残してきた全て、死んだら守れない。もしかすると、この子たちのように。
「ご、めん、な、さい。」
「ゆ、る、して。」
グングン育つ闇の木に、ポポンと花が咲く。柱頭はドレも虚ろで、サラサラした液を押し出している。ポタポタ垂れ、淡く光るソレは涙か?
花糸はヒョロヒョロ、花弁はシオシオ。祈るように揺れながら、いろいろ思い出している。
生まれ育った地、残してきた人。嬉しかった事、悲しかった事。楽しかった事、辛かった事。全て輝いて見えた。
戦なんて、無ければ良いのに。